どれくらいか、静寂があった。
　それなりにショックはあったが、捕まえるには好都合だ。
　そう言ったほうが正しだろう。
　その静寂を破ったのは、意外な人物だった。

「あれ？永倉じゃん。七朝に逸目も、残って何やってんだ？」
　それは、教室に入ってきた椎野だった。
　野球のユニフォーム姿で、部活中のように思える。
「椎野くん！？」
　突然で吃驚したのか、は大声で叫んでしまった。
　当の本人は「ん？」と振り向く。

「椎野、なに？」
　莉璃も吃驚している。
「あぁ、キャップを忘れて･･･って、誰？」
　志摩と香に目が向けられ、椎野はそう怪訝そうに言った。
「あ、あー！この人は私の友達の志摩･･･義音ちゃん！」
　なっ！！と志摩はの方を向く。
　しかしは続ける。
「で、この人はお姉さんの香さん。特別面談だったみたいで、ばったり会ったの」
　香のほうは、確かに女性でも通用しそうな名前だ。
　心の中ではホッとしている。
「あ、どうも。」
　椎野はの嘘にまんまと引っかかり、挨拶をした。
「よろしくね」
「仲良くしてあげてね」
　さすが、と言ってもいいだろう。
　二人は高い声を出して、そう挨拶をした。

「さ、俺は早く行かなきゃな。」
　椎野は自分の席に行き、鞄の中から帽子をとった。
「じゃあな。早く帰れよー謎の仮面�]が出るぞ」
　そう言って、椎野は走ってグラウンドに向かった。

　････････
　志摩は、なんとなく引っかかったのか、椎野の席を見ておいた。
　鞄に、体操服が入っている袋がぶら下がっている。

「････そういえば、なんだよあの名前は」
「え？」
　振り向いたは、噴出しそうなのを堪えていたのだ。
「だって志摩くんの名前だとバレちゃうし･･･それより何、あの声･･･あはははっ！！」
「わ、笑うな！！」
　うきーっと起こる志摩を抑え、香は言った。
「、それでどうするつもり？」
「そこなんだけどね」

　不敵に微笑み、は楽しそうに言った。
「捕まえるの一言に尽きるわね。来てくれるんなら、探す手間も省けるし」
　しかし、志摩の表情が可笑しい。
「･･･、捕まえるのはお前がやってくれ」
「へ？」
　、香も志摩の方を向く。
　女の子のような格好だが、表情だけはいつもの真剣な表情に戻っていた。

「ちょっと調べたいことがある」



　は快く頷き、元気よく棍を持って行った。
「頑張ってきまーす！」
　それを見送った志摩は、突如反対側の方向へ走っていった。
「ちょ、志摩さん！？」
　香は突然のことに驚いて、ついて走った。

「どうするの志摩さん！？」
　止まったと思ったら、隠れる。
　香は志摩の考えることが分からなかった。
「･･･香ちゃん、ちょっと聞いてくる。」
　答えないで、志摩は一人目標の人物に近づいていった。
　それは、野球のユニフォームを来た少年だ。

　少年は志摩の質問に快く答え、
「あぁ、いたような気がするなぁ。たしか2年5組の丹羽だったような」
「そっか。ありがとなっ！！」
　そういって、志摩は香の元に戻る。
　少年はなんだったんだ･･･？と、志摩の後を見ていた。



「志摩くん、何を調べる気だろうなぁ〜。」
　一方は一人、棍を持って辺りを歩いていた。
　丁度一階の廊下を歩いていた。

　すると、途端･･･一瞬だった。
　ギュッと誰かに抱きしめられたのだ。

「ぅわ！？」
　誰か、と後ろを振り向く前に、口に何かを当てられた。
　なにか、匂う。

　･･･これ･･･睡眠薬･･･

　徐々に、の意識は遠退いていった。





　そのころ、志摩は、香の場所まで戻った。
「香ちゃん、犯人が分かったぞ」
「え？」
　志摩は、軽く舌打ちをして言った。
「なんだって！？」
　聞いた香は唖然とした。
　まさか、あり得ない人物だ。
「あぁ、そうだ。香はアーチェリー部の丹羽に会ってそいつのことを聞いてくれ。俺はを探すからよ」
　理由が分かれば、香も行動は早い。
「分かった」

　二人は同時に散らばった。

　志摩は走って、を探したが、何処にもいない。
　念のため、教室に行ってみたが、誰もいない。
「ったく、何処に･･･ん？」
　何か、違和感がある。
　何処か、足りないような･･･

「･･･お、おい･･･っくそっ！！」
　ふと、その“足りないもの”が分かった志摩は、急いで香を探した。



「香！」
　志摩の言葉に香は振り向き、「志摩さん！」と叫ぶ。
「志摩さんの予想通り。アーチェリー用の矢も何本かなくなってるみたいだよ」
「そうか･･･萱野のところに行くぞ。聞きたいことがある」

　志摩と香は急いで職員室に向かった。
　場所はから聞いてあった。
　職員室に入ると、中には誰もいない。
　幸運なことに、みんな職員会議で出払っていたのだ。
　すぐ隣のドアを開け、二人は階段を一気に上って行った。

　勢いよくドアを開けると、萱野は書類整理をしていたみたいで吃驚していた。

「萱野 一誠さんだなっ！」
「･･･永倉さんの仲間ですか？」
「あぁ･･･俺は志摩 義経。こっちは駿河 香だ」
　萱野は服装と言葉遣いが違うことに怪訝を感じたが、急いでいる二人の表情に納得を覚えた。
「聞きたいことがある」
　単刀直入に、しかも淡々と早く志摩は話した。

「何処か、特別教室の鍵をなくしたところは無いか？」
「特別教室･･･？」
「なんで、そんなところの鍵を？」

　志摩は、やられたという表情をして呻いた。
「俺たちは、踊らされてたんだ」
「えぇっ？」

「ヤツは、教室でたちが話をすることを知っていたんだ。
　おそらく、話しているところを盗み聞きした。
　それで、敢えてあの場に現れて自分じゃないことを裏付けていたんだ」

　続けて、志摩は言った。

「あの時、キャップを取りに来たんじゃない。前から盗んであった特別教室への鍵を持ったんだよ。
　全て知られていたんだ･･･が何でも屋だということ以外はな」
「まさか･･･」


　香は蒼白になった。
　志摩も、分かっている。


「あぁ、犯人は椎野だ･･･があぶないっ！！」