「何でだよっ!!」
家中に志摩の声が響く。
香も唖然とした顔をしている。
「・・・なんでコレを着なきゃダメなんだ!?」
彼らが持っているのは服。
志摩の方が制服、そして香のほうは私服だ。
制服は、勿論と同じ。
私服は少しお姉さんっぽい感じだ。
「だから、男だってばれちゃ駄目なんだってば」
の顔は真剣だ。
「香ちゃんはまだ有名だから大丈夫だけど、志摩さんは謎の仮面]に間違われても仕方ないのよ!」
確かに、の言うことはもっともだった。
志摩は莉璃と飛鳥には分かるが、他の人は知らない。
一方、香は『キョウ』として有名なため、疑われるわけが無い。
「うっ・・・」
志摩は言葉が詰まる。
この依頼をこなす以上、手に持っている制服を着ないといけない。
「さ、志摩 義経くん?どうしますかぁ?」
志摩の心の中を覗いているかのように、は言った。
傍に寄って、恐ろしい笑みと共に見上げながら。
「・・・・・・・・・・・分かったよ・・・・その代わり、香ちゃんも女装させろよッ!!?」
「もちろんでございます!」
の目の光が、香に向いた。
当然、香の額に冷や汗が溢れた。
「やっほぉ莉璃、飛鳥!」
ほとんどの人物が家に帰ったが、教室にはまだ莉璃と飛鳥が残っていた。
「、やっと来たわねー」
「本当に、いつまで待たせるのー?」
そう言いながらも、二人は微笑んでいる。
苦笑して、後ろに指を差す。
「二人に時間を取られすぎたのよ」
嫌そうに出てきた二人に、莉璃と飛鳥は唖然とした。
「・・・志摩くんっ!?」
「キョウまで!!」
「ったく・・・何で俺が・・・」
「志摩くん。謎の仮面]に間違えられたい?」
の睨みに志摩は言葉を詰める。
志摩は呆れながらも、と同じ制服を身に纏っていた。
黒に赤のセーラー服、同じ色のチェックのスカートを履いている。
そして、カチューシャを付けて、綺麗なウェーブのウィッグをつけている。
と並ぶと、可愛い姉妹のようだ。
一方、香のほうは志摩とは違い、大人っぽい私服だ。
黒のブラウスに、白のロングスカートを着ている。
ウィッグはストレートで、身長のせいかとっても綺麗に見える。
「へへ〜どぉ?私の力作!」
「すご・・・」
「つか、こんなに女装が似合う人達初めてみた・・・」
莉璃も飛鳥も言葉を失っている。
「あ、そだ。一応紹介しておこうか。」
そう思って、志摩と香のほうに彼女は振り向いた。
「志摩くん、香ちゃん。こっちが七朝莉璃で、隣が逸目飛鳥」
「おう、莉璃に飛鳥だな」
「よろしく」
そしてくるっと振り返り、
「莉璃、飛鳥。こっちが志摩くんで、隣が香ちゃん」
「うん、わかってる」
「よろしくね」
お互い、微笑んで挨拶を交わす。
そして、はニッと笑い、
「で、リサーチかけてくれた?」
莉璃と飛鳥はそれぞれ頷き、
「当たり前」
「私たちを誰だと思ってるの?」
「そーでした」
苦笑している辺り、は流石だと思っているのだろう。
「なぁ、何で二人がリサーチをかけているんだ?」
ついていけないのか、溜まらず志摩はそう言った。
ん?とは振り返り、不適に微笑んだ。
「実はね、莉璃は報道部、飛鳥は新聞部のそれぞれ部長さんなの」
途端、莉璃と飛鳥の肩に“たすき”がかかっているように見えてしまう。
2年で部長になるなんてよっぽどの実力がないと無理だろう。
しかしこの2人には実力があった。
「なんか、無敵だね、の周りは・・・」
香の言葉には頷く。
「まぁね。校内ならどんな情報もつかめるってことよ」
で、と莉璃と飛鳥に向いた。
「どうだった?」
「どうだったもこうだったも、情報が入りたい放題よ」
「順を追って説明していくわよ」
飛鳥はそういって、分厚い資料を見た。
「まず、謎の仮面]なんだけど、服装は黒いマントで全て隠されてるわ。そして能面を被ってるの」
次は莉璃が口を開いた。
「人を脅すとき、何故かアーチェリー用の矢を使うのよ。
確かに鋭い刃になってるけど、どうしてそんなもので襲うのかしら」
それぞれ、交互に話す。
、志摩、香は黙って二人に耳を澄ましていた。
「逃げ足が速いみたいで、先生方も苦戦してるらしいわ。
声を聴いた人もいるみたいだけど、それも変声機で声を変えられてるみたいよ」
「身長は175センチ前後。多分、趣味か何かに使っているのよね、アーチェリーは」
「・・・被害とかは?」
だ。
その言葉に、一回頷いて二人は話し始めた。
「「合計4回現れた」」
「まず、制服。丁度体育の時間に、女子更衣室に入り込んで制服を盗んだわ。
そして、次はある女生徒の後をついていったの。家に入ると何もなかったらしいけどね」
「次に現れたとき、女生徒の髪の毛を目の前でバッサリ切っちゃったのよ。もう根元の方までね」
莉璃の言葉に息を呑み、は自分の髪の毛を触る。
「そして、今のところ最後に起きてるのが、女生徒を体育倉庫に閉じ込めたの・・・服を剥ぎ取られて」
ビクッと彼女の肩が震えた。
あのことを思い出しているのだろう、志摩と香にも解った。
は、一つ大きなトラウマを持っている。
それにいつも怯えている。
「・・・・・・それで、私たちで考えたところ、面白いことがわかったの。」
「・・・なに?」
飛鳥は資料からの方をむいた。
「最初に現れたのは、5組の女生徒の前。あ、それでここで男子生徒に追いかけられたのね。
そして、それから4組、3組、2組の女性との前に現れてるってわけよ。
しかも、なんとうちの学年だけ」
「・・・・それって、まさか・・・」
の表情が固まった。
そう、と莉璃は付け加える。
「次は、1組・・・私たちのクラスの誰かの前に現れるってわけ」
志摩と香もそれには驚いていた。
「おいおい、意外な事実が発覚じゃねぇか・・・」
「・・・まだ・・・あるのよ」
凄く言いにくそうに、しかし言わなければならないのか・・・飛鳥は口を開いた。
「5組で被害にあった女生徒・・・彼女、後ろ姿と背丈がに似てるのよ・・・」
「・・・・・え?」
莉璃もそれに習った。
「・・・他の3人も、みんな後ろ姿と背丈が似てるの・・・」
だけじゃなく、今度は志摩と香までもが蒼白な表情になった。
それって・・・・・・もしかして?
「次は、に来ると私たちは思うの」
まさか、自分が標的の候補に上がるなんて、思いもしなかった。