静寂が包んでいた。

 萱野 一誠 ―― 依頼人は目を見開いて驚いている。
 それもそうだろう。
「永倉屋」の正体は生徒だったなんて。

 当人の永倉 は、覚悟をしていた。






謎の仮面]の正体を破れ!!






「キミが・・・何でも屋の?」
「はい」
 どんなことを言うだろう。
 高校生が仕事をしているなんて。
 それが自分の学校の生徒だったなんて。
 校長先生は私に退学処分を出すだろうか ―― の頭の中に、そんな言葉が浮かんだ。
 しかし、仕事に集中しないといけないため、ふっと全て消した。

「そうか・・・小西先生の事件のときは、世話になったね」
 吃驚していた表情はすぐ優しい笑顔に戻り、そう言った。
「いえ・・・で、今回の依頼の件なんですが」
「あぁ、そうだ」

 萱野は生徒の間で優しい校長だと言われてきた。
 は萱野を見たことが無かったから根拠は無かったのだが、今・・・分かった。
 を見る目がとても優しい。
 お父さんを思い出す。

「実は、近頃不審な男が出入りしていることは知っているかね」
「えぇ、生徒の間では“謎の仮面]”と言われています」
 そうか・・・と言って、萱野は続けた。
「その男は永倉さんが知っているように、生徒に執拗に絡んでくるのだよ。永倉さんは遭遇したことはあるかね?」
 は首を横に振り、でも・・・と続けた。
「クラス中が見ています。友達は『黒ずくめで、能面のような仮面を被ってる』って言ってました」

 黒ずくめで、能面の仮面。
 気味が悪く、とても目立つのに捕まらない。
 足取りがつかめないのは可笑しい。
「どうして、足取りがつかめないんですか?」
「それが、消えるんだよ。角に追い詰めると走り出して、道を曲がるといなくなっている」
 本当に困っているのだろう、萱野は苦笑している。
「生徒は・・・追わないんですか?」
「あぁ、何をされるか怖がっていてね・・・」
 何をされるか・・・?
 意味が分からず、怪訝に思った。
「それは・・・どういう意味です?」

 萱野は、辛そうな顔をしたが、依頼には必要な情報らしく、やがて口を開いた。

「実は、その男は一度傷害未遂を犯しているんだよ」

 それは、謎の仮面]が出没し始めたときだ。
 一人の男子高生が興味本位で追いかけていったところ、追い詰められた男は懐から棒を取り出した。
 それはアーチェリー用に使われる矢で、それで男子高生に襲い掛かってきた。

 どうにか男子高生は逃げたため無事だったが・・・それから生徒は追いかけることをやめた。



「なるほど・・・」
 それで謎が解けた。
 どの生徒も、謎の仮面]を話題にしている。
 しかし、足取りの話は不明とされていたのだ。
「警察にはどうして?」
 の言葉に、親切に萱野は答える。
「言えないのだよ。言ったら、その男は逃げてしまう。
 こんなに被害があるのに、逃げられる訳には行かないだろう?
 それに、他の学校に被害が移るかもしれない」
「なるほど。そこで私に依頼したわけですね。極秘で」
 萱野は頷く。
 それなら、大賛成よ。
 は決意の顔をした。

「依頼、お受け致しましょう」

「有難う、永倉さん」
 萱野は、本当にホッとしているようだ。

 しかしは、途端に視線を落とした。
「・・・校長先生」
 先ほどと違う呼び方に、萱野はどうしたんだい?と優しく尋ねた。
「・・・仕事のこと、続けてもいいですか?」
 普通、高校生が仕事をするなんて非常識だ。
 退学されても、停学処分を受けても、仕方が無い。

「・・・君は、私の学校を1度救ってくれた。それに、今回も助けてくれようとしているだろう?」
 萱野の笑みは、変わらなかった。
「・・・じゃあ・・・」
「頑張りなさい」

 はなんだか嬉しくなって、微笑んだ。
「有難うございます!」


 二人の意見により、このことは校内には極秘にしておく必要があった。
 そして、は尋ねるべきことをきく。
「それで、私のほかに仲間が2人居るんで、その2人も仕事を手伝ってもらおうと思います」
「あぁ、分かった」
 この言葉は、校内に勝手に入っても良いということだ。


 ・・・これは、なんか一人で話がつきそう。
 そう思ったはあえて放課後時間を取ってくださいとは言わなかった。
 コレを伝えて、志摩や香と作戦を勝手に遂行しようと、脳内でスケジュールを照らし合わせる。


「では、早速調査をします」
「・・・頼みました」

 謎の仮面]の招待を暴くため、『永倉屋』は始動した。