断ち切ろうとした矢先に、また、同じことが繰り返される。
 誰かが助けてくれるのを待っているほど、気長じゃない。
 それでも、心の奥では願ってる。

 ―― 気付いて、腕を引っ張って、此処から救い出して、と。






アルエ ―― 私の居場所






 とめどなく溢れる涙をどうにか拭き、は携帯を鞄の中に入れた。
 とりあえず、一刻も早く志摩に逢いたい。
 今までなら一度も思ったことがなかった感情だ。

 何故かは知らないけど・・・逢えば、安心できる。
 鞄を持ち、棍をぎゅっと握っては教室を出た。

 足取り重く、階段を降り、長い廊下を渡っていった。
 そしてローラーブレードに履き替えると、全速力で走った。
 いつもより更にけたたましい音が響く。
 ぎりぎりで避け、棍を当てないように・・・でも、早く帰りたかった。

「あっ、ー!!」
 ふと呼ばれ、は振り返った。
 速度を弱め、誰が呼んだのか目を凝らしてみる。
 危険だと判断するなり、いつでも『』で攻撃できるように。

「やっぱりだ!ほら莉璃、早く食べなよ」
「ちょ、待ってよ・・・!」
 親友の莉璃と飛鳥だ。
 そっと棍を後ろ手に隠し、ニコッと微笑む。

「あれ、二人ともどうしたの?」
 オープンカフェに座ってお茶をしていた二人はの下まで歩いてきた。

「遊んでたの。ねぇ、も遊んで帰らない?」
 莉璃は口に含んでいる食べ物を飲み込み、ごめんといってお茶を取りに行った。
「ん〜・・・止めとく。なんか今日は早く帰りたいの。また誘ってね」
「そっかぁ、分かった」
 そのまま、お茶を持って彼女はまた戻ってきた。
「ところでさ、。なんでそれ持ったまま帰ってるの?」
 莉璃が指を指した先に、棍がある。ばれたか、とばかりに棍を前に持ってきた。
「コレ?・・・・・・護身用?」
 は冗談めかして言ったが、まさか本気だとは二人も思わなかっただろう。


 ローラーブレードを飛ばして、家にたどり着いた。
 器用に走りながら鞄を漁り、鍵を取り出す。
 ガチャッと開いた途端、中に入る。

 ・・・唯一、安心できる場所。
 庭に入ると、速度を緩めて玄関まで向かった。

 ワンッとリコのほえる声が聞こえる。
 中に入り、ソファに座ると、何故か涙が溢れた。
 涙の後が、冷たい。
 つきっぱなしのクーラーが慰めてくれているのだろうか。


 ―― あの頃も、どうしようもない気持ちに襲われたっけ・・・


 ふと、あの曲が弾きたいと思った。
 もう弾く必要はないと思った幻の曲・・・クロエ。
 こんなにも早く必要だと思うなんて・・・。

 ガチャッと音がし、誰かが家の中に入ってきた。

「よ、!来たぞー」
 挨拶をしながら、どかどかと志摩が入ってきた。
「だからチャイムを鳴らして入ってよ。いつか捕まるから、キミ」
 志摩のほうに微笑むと、彼はニッと笑って
「今日は開いてたぜ?無用心だな」閉めといたけど、と続けた。
 あ、確かに鍵を閉めるのさえ忘れてたかも。
 でもそんな事どうでもいい。
「そういえば、香ちゃんも来るってさ。さっき仕事終わりだって言ってたぞ」
「・・・そうなんだ・・・」
 駄目だ、会話に身が入らない。
 平気ぶろうとする度に、両手が震えそうで、思わず両腕を握り締めた。

「・・・なぁ、どうしたんだ?」
 ふと、隣に座って志摩が聞いた。
「何かあったんだろ?明らかに今日のお前変だぞ」
「え・・・なんで?」
 志摩は眼を机の上に移動した。
「コレ、いつもなら組み立ててないだろ。それに鍵もだ。あのが掛け忘れるなんて滅多にないからな」

 さすが、よろず屋東海道本舗だ。
 ここまでの推理をするとは・・・と言っても、些細なことだが。
 隠し切れないことを敏感に感じ取ってしまった。
 平静を装おうとするたびに、笑顔が崩れていく。終いには、再び涙が溢れてきた。

「・・・・・・・・ひっく・・・・うっ・・・・」
「なっ!?おい、泣くなよ!!」

 突如泣き始めるに、志摩は動揺する・・・が。

 本当は、ずっと前から泣きたかったのかもしれない。
 我慢していたのかもしれない。
 それが分かった今、余計に涙を止めることが出来なかった。

「ぅわああぁん・・わああぁん・・・・」
 いつの間にか、志摩に抱きつき、胸の中で泣いていた。



 本当は泣きたかったんだ。
 ただ強がっているだけなのに、「大丈夫だ」って本当の自分を見なかったんだ。

 泣きながらも、実感してしまった。

 あぁ、こんなにも弱かったんだ。



 香が来るまで、はずっと泣きじゃくった。

 涙が止まった頃には少しすっきりし、同時に、二人の存在を大きく思うだろう。