「あれ・・・先生?」
「さぁ、ついたよ。今日からここがキミたちの家だ」
小西は嬉しそうな顔を隠すことなく言った。
「・・・え?」
「先生?」
莉璃と飛鳥は呆然とした表情になっている。
「止まった・・・どうなったんだ?」
その頃、トランクに密かに入っていた志摩はそっと辺りの様子を見た。
志摩が見た光景は、嫌そうに三人が小西に連れられて家の中に入っていく。
「よし、今だ」
志摩はそっとトランクから出て、後部座席に侵入する。
「やっぱり、鞄は持って行けないだろうな」
志摩が考えた通り、その中にの学生鞄が入っている。鞄から黒い棍が覗いていた。
「だっけ・・・?置いて行ってどうするんだよ・・・」
志摩は呆れるように呟き、棍を持って家の中に入り込むことにした。
その頃は、地下の牢屋みたいなところに莉璃、飛鳥と入れられていた。
片足には足枷を付けられ、逃げられない状況に置かれてしまった。
地下の牢屋は他に3つほどあって、同じ制服で怯えている少女の姿が何人か目撃された。
「ねぇ、・・・私たち、どうなっちゃうのよ」
さすがに莉璃も怖いのか、声が震えている。
「まさか、あの小西が・・・」
飛鳥は今にも泣きそうだ。
しかし、だけはそんな弱音を吐くことはなかった。
「大丈夫大丈夫。助っ人がいるんだから」
「「・・・助っ人?」」
その助っ人である志摩は、そっと玄関のドアを開け、中の様子を伺っている頃だ。
小西は忙しそうに地下の方から階段を登っていった。
「永倉さんまで来たぞ。こりゃ、僕のコレクションにしなくちゃな・・・」
なんて口走っている。
おいおい大丈夫か・・・?
志摩はそう思いながら、小西が現れたドアへ向かっていった。
答えは否だ。
「・・・なんでそんなに冷静なの?」
莉璃は信じられないと言いたいように、そう言った。
「そうよ・・・私たちどうなるか分からないのよ?」
「まぁまぁ・・・大丈夫」
と、二人を慰め、は大声で叫んだ。
「何処か、水瀬 美咲さんはいますかー!?」
すると、前の牢屋から弱々しく返事が聞こえた。
「は、はい・・・?」
おー、いたいた。
は楽勝とばかりに微笑んだ。御用完了だ。
そもそも、こんなところに来たのは依頼(本人は御用と呼ぶ)が原因だ。
姉、水瀬 真咲から妹の美咲を探し出すように依頼されていたのだ。
「!!」
ふと、階段から名前を呼ぶ声が聞こえた。
のほかに、莉璃と飛鳥・・・その場にいた全員が、声に反応して顔を上げた。
「志摩くん、こっちこっち」
黒い棍を持った志摩だ。誘導するように手を振った。
「ったく、遅いっ!!」
「しかたねぇだろ!?お前こそコレ忘れていくなよ!」
志摩の手からの元に、棍が渡った。
「ありがとう」
にっこり笑って、また真剣な顔に戻った。
「美咲さんは前の牢屋にいるよ。でね、志摩くんご自慢の泥棒技で鍵を開けていってほしいの」
「泥棒技っていつまでも言うな!!・・・でも、賛成だ」
階段の方から、足音が聞こえだした。
咄嗟に気付いた志摩は、の隣にある部屋に隠れた。
「さ、今日は新しい仲間が出来たぞ。まさか、永倉さんまで仲間に加わるとは思ってなかったなぁ」
は判断した。
コイツは今私に興味がある・・・私が惹きつけておけば。
「えーと先生、お手洗い行きたいんですけど・・・」
「あぁ、そうか。じゃあ僕もついていくけど、良いかい?」
内心うっとおしいと思いつつ、は頷いた。
莉璃と飛鳥は変わらず青い顔をしていたが、が後ろでスカートに棍を挟んだのが分かったみたいだ。
志摩くん、後は頼んだよ。
は小西に連れられるように、上に上がっていった。
直後、今度は志摩が真っ青になって出てきた。
「なんだこの部屋っ!!!」
志摩が入り込んでいたのは、プライベートルームらしい部屋で、いろんな女性の裸身が張られていた。
最初は紅くなっていた志摩も、のことを思い浮かべると徐々に顔色が青くなっていく。
「ったく・・・」
しかし、もよく考えたもんだ・・・なんて思いながら、得意(?)のピッキングで牢屋を開けていった。
「あなたが、が言ってた志摩くん?」
莉璃と飛鳥の牢屋を開けていると、そう言われた。
あぁ、と頷くと二人は顔を崩して半ば嘆くように呟いた。
「は大丈夫なの?」
「小西、絶対のこと・・・」
志摩は、大丈夫だろと笑ったが・・・
「・・・でも、開けたら行ってみるとするか」
実は心配だったらしい。するとスピードを上げて開錠し始めた。
その頃、は小西に連れられてトイレの前に来ていた。
「じゃ、ここで待っててくださいね」
微笑んで、入ろうとするの手に、手錠がはめられた。
「・・・えっと?」
「逃げないように、僕と繋がっておこう」
「はぁ・・・」
の頭の中の辞書から、ある言葉が浮かんだ。
変態だ、コイツ。
ドアを閉めたはスカートの後ろをたくし上げ、スカートから棍を取り出した。
「苦しかった・・・」
なんて言ってるが、仕事をするは生き生きとしていて楽しそうだ。
まさに、今がそうだろう。
必要なくついていたヘアピンを髪の毛から外し、手錠に入れて泥棒技をしだす。
この技を用いて部屋に入られたとはいえ、志摩くんに教わってて良かったなんて思ってしまった。
少し経つと、カチンと音がして手錠が外れた。
「永倉さん、まだかい?」
「はい、今すぐ・・・出ますよ」
微笑んでいるが見える。
ドアは足で開けた。いや、ぶち破ったといったほうが正しいだろう。
「なっ、なっ・・・!?」
小西は動転している。
それもそうだろう。あの永倉 がまさかドアをぶち破り、黒の棍を持って出てくるところなど、誰が想像しよう?
の顔から膝くらいまで、“”が黒く光る。
楽しそうに笑っているは、棍をクルッと回して言った。
「小西先生!御用改めです!!」
「なっ、にを!?」
丁度、牢屋にいた高校生が外に出て行き、莉璃と飛鳥・志摩が出て行こうとしたときだ。
「あーっ、久々に言った気がする、この言葉」
嬉しそうに微笑んでいる。
「・・・?」
「あの子、なんであんなに楽しそうなんだか・・・?」
莉璃と飛鳥は唖然としているが、志摩は笑っていた。
「そういえば、仕事最近入ってなかったからな」
呆然としてる小西に、事情を説明するべくは口を開いた。
しかし準備運動がてら、棍を回している。
「どーも、永倉屋でっす!知ってます?」
「永倉屋・・・っ!?」
「実は、水瀬真咲さんからとある依頼があったので、わざと来たんですよ」
「なっ・・・!!」
呆然としている。
生徒がまさかそんな仕事をしているなんて、思いもしなかったのだろうか。
或いは、今自分の置かれている状況を素早く理解したのかもしれない。
だがそれでも、警察の言葉を口に出した途端、小西の目が血走った。
「さ、警察に出頭しましょう」
「こっのぉぉぉ!!」
近くにあったナイフを持ち、に向かってくる。
「っ!!」
「危ない!!」
状況を見ていた莉璃と飛鳥は思わず眼を閉じた・・・が。
ニッと微笑んだは向かってきたナイフを棍ではじき、素早く持ち直して右腕を目掛けて振る。
何かが容赦なくぶつかる音、そして、小西の叫び声が聞こえた。
「「えっ?!」」
莉璃と飛鳥は小西の大声で目を見開いた。
「先生さぁ、もう降参したら?」
そのまま棍を後ろに持って行き、両手で持って思いっきり降ろした。
ブンッと音が聞こえる。
「うわあっ!!」
悲鳴を上げ、小西は目を瞑るが・・・
「そこまで酷じゃないですよ」
寸止めで逸らして、紙一重のところで小西の隣にぶつかった。
ビリビリと手が痺れる。
打たれる小西もそうだが、打つも相当なものだ。
「志摩くん、警察に連絡は?」
「あぁ、今来た」
莉璃と飛鳥を横に退けた志摩が扉を開けると、そこにパトカーが4・5台止まっていた。
志摩は小西の家に着いた時点で警察に通報をしていたのだ。
どっちみち、小西に逃げ道はなかった。
こうして、女子高生誘拐監禁事件はあっけなく幕を閉じた。
後に、莉璃と飛鳥から感動の言葉と追及の言葉を浴びせられたのは、言うまでもない。