私は、少々のことではビビらない。
男達に囲まれたって、相棒があればどうってことないわ。
ただ・・・一人の男にコレほどまでに振り回されるのってどうなわけ!?
これほどまでセーラー服を恨んだのは初めてだった。
学ランとセーラー服【交渉成立】
「行ってきまぁす!!」
“大朱華組”の看板がある大きな門から出てきた私は、後ろに入る見送りの人達の声を聴きながら歩き始めた。
「「お嬢、行ってらっしゃいませ!!!」」
私の家は代々伝わる任侠集団。要は、お父さんがヤクザの組長なわけ。
で、大朱華組の人々の中で私は“お嬢”って呼ばれてんのよね。
私が通ると、子供だろうが奥さんだろうがみんな避けるの。
この街・・・特に家の近くだととても私は怖く見えるらしい。
並盛中に行く前の中学も、以外親友は出来なかったし・・・隙あらば強いと謳う男達がやってきたし。
その度に倒してきたんだけど、転校したくもなるでしょ?
だから、誰も知らない5駅向こうの学校まで行ってるんだよねぇ。
「、おはよー」
「おはよう!今日もいい天気!!」
「アンタも相変わらず注目されまくりねー」
が苦笑する。
彼女だけが、本当の友達といえる存在で、一緒に転校してくれたんだ。
私の家のことにも理解があって、彼女の両親ととっても仲がいい。
「そういえばさぁ、」
がきょとんとして訊いた。
「昨日なんとかって人に呼ばれたじゃん?あれ、どうだったの?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
昨日のことでしょ?
転校初日、ブレザー着用なのにわざとセーラー服で行ったんだよね。
まぁ、今日もセーラー服なのには理由があるんだ。
「雲雀くんね、風紀委員長だったんだ〜」
「ふぅん、ヒバリって言うんだ。風紀委員長って・・・アレが?」
「ほんとよねー」
雲雀くんの服装は、学ラン姿。
私と同じようなもんじゃないって突っ込んだら、「僕は例外」って返されたんだよ。
「でね、雲雀くん仕込みトンファーを持ってたんだよ」
「あ、それ聞いた!」
聞いた・・・って、誰から??
「あの後クラスの人から聞いたのよ。雲雀って人、不良の頂点に君臨してて、
誰だろうと仕込みトンファーで滅多打ちだって」
「へー、不良の頂点ねぇ?」
だから強そうだったんだ。納得!
「で、痛めつけられたわけ?」
ニヤニヤしながらは訊いてくる。答え解ってるくせに。
「愚問でしょ。やられるわけ無いじゃん」
「ボッコボコ?」
「ううん。向かってくるトンファーを止めただけ」
「えぇっ!?あのが!?」
・・・それ、どーいう意味よ。
そう言おうとしたけど、降りる駅についてしまったから一時中断。
「って売られたケンカは倍にして返すんじゃなかったっけ?」
「あのねー・・・」
確かに今までは倍にしてたけど、相手が望んでたんだってば。
「私は平和主義なの」
「へぇー初耳」
「本当です!」
全く、信じやしない!
そして歩いて学校に到着。あーやっぱまだ目立ってるわ、セーラー服。
私とは気にすることなく教室に向かった。
私って結構まじめなのよ・・・ホントは聞かなくても解るけどさぁ。
だから、ちゃんと授業は出る。(たまに寝てたりするけど)
ただ、6時間目とかになるといい加減眠くなる。
「はぁ〜、最後が体育って大変よねぇ・・・って、?」
5時間目が終わった時点で私は夢の中だった。
「変わらないわねぇ・・・」
見守るように微笑んだは他のクラスメンバーとともに更衣室に向かっていった。
6時間目開始を告げるチャイムが鳴ったとき・・・私は自分の席で眠りについていた。
誰もいない教室内。勿論入ってくる人もいないのだが・・・
ガラッと大きく音が鳴った。
「・・・なにしてんの?」
声の主は“雲雀 恭弥”。だけど寝入ってる私は勿論返事もしない。
授業をサボってるのか、スタスタと学ランを揺らせながら歩いてきた。
「寝てる・・・信じられないね、こんな所で熟睡するなんて」
私には聞こえない。
雲雀くんは隣の席に座ってたけど、ふと思いついて立ち上がった。
「うん」
頷いたと思ったら、私の体が宙に浮いた。
でもぐっすり眠っていた私にとっては、浮くことは夢を見るための題材としかなってなかった・・・
数分後、教室内は誰もいない。
一方私はというと、夢の中でお父さんと警察がとてつもない争いをしていた。
さすがお父さん、めちゃくちゃ強いけど・・・捕まっちゃう!!!
「後ろっ!!!!!」
大声とともに目を覚ました。
あ〜こわ・・・お父さんが後ろから捕まっちゃったよ。
「なんだ、夢か・・・怖かったぁあ・・・」
「どんな夢?」
「あのね、お父さんがおかみにつ・・・か?」
明らかに・・・の口調じゃなかったよね。声も違うし。
ゆっくり目を上げると、そこにいたのは
「ひっ、雲雀くん!?」
「やぁ」
って・・・めっちゃ至近距離なんだけど!?
「って面白いね。魘されたと思ったら『後ろ』だって」
「あはは・・・」
呼び捨てなのも大問題よ。
危なかった・・・大朱華組の名前は出てないみたい。(“おかみ”とか言っちゃったけど)
「で」
辺りを見回す。
「何で私が応接室にいるわけ!?」
革張りのソファに広い部屋、食器類が置いてあったりカーテンが揺れてたり。
私が居たのは、風紀委員が拠点としている応接室だった。
ソファの上で寝てたなんて、お行儀が悪いじゃない!(教室で寝てるのも悪いけど)
机の上に座ってた雲雀くんは何事も無いように
「僕が運んだ」
「そんなの解りきってます!」
この至近距離も気になるって!!でも背もたれがあって退がれられない。
「で、なんで運んだわけ?」
こんなことでいちいち驚いてはいられないわ。
もっと人間広く生きなきゃ・・・そうよね、うん。(言い聞かせ)
私の質問に答えるように雲雀くんはニコッと笑った。
その微笑が何処か裏がありそうだなぁ。
「今日もセーラー服なんだね、」
「・・・・・・うん。だって雲雀くんが許してくれたんだし」
「じゃあもう拒否権は無いね」
「はぁっ!?」
私は思わず起き上がった。
ちょっ、待って!!拒否権って一体何のこと!?
私の気持ちを読み取ったのか、雲雀くんが続けたのは信じられない話。
「実は僕のクラスは風紀委員が一人しかいない」
“僕のクラス”つてことは、私のクラスだよね。
一人ってまさか雲雀くんだけなんだ?
「規定はもう一人予備で居ないといけないんだけど、」
「なんでいないの?」
「群れるのが嫌いだから」
・・・要は、雲雀くんが拒否したってことじゃん。そんなの自業自得じゃないの?
雲雀くんは私が怪訝そうな表情をしたのを見た。
「今日からが副委員長だから、よろしく」
「・・・はぁぁっ!!?なんですってぇぇ!!?」
勢いよく立ち上がると、雲雀くんもそれに習って立ち上がった。
なんで副委員長に抜擢されないといけないわけ!?
ただの委員で・・・いや、それ以前に群れるの嫌いだからいらないって言ったんじゃないの!?
「丁度副委員長も居なかったんだ。僕はならいいと思う」
「いや、心情を読み取らないでクダサイ」
雲雀くんが「声に出てたけど」って言ったけど、そんなことどーでもいいのよ!!!
「私には出来な「拒否権は無いって言ったよね」
私の声を消し、有無を言わさない声でいいやがった。
「なんで!?」
どうして拒否権がないの!?と言いたかったけど、雲雀くんの方が早かった。
「それ」
「え?」
指されたのはセーラー服。
「もしかして、僕が無条件で許したとでも思ったの??」
「・・・え?」
それってひょっとしてひょっとすると・・・
「セーラー服許す代わりに副委員長をしろと?」
「正解」
そんなの聞いてないし!!
雲雀くんは続けて言った。
「が今日ブレザーを着て来てたらこの交渉は成立しなかったんだけどね」
ってことは、セーラー服を着て来たから交渉成立!?
どっちにしろ、私に逃げる道はなかったみたい・・・。
「じゃあ今日の放課後、会議室で風紀委員の集まりがあるからよろしくね」
「・・・・・・・・・・・・はぁい・・・・・・」
こうして私は風紀副委員長となってしまった。
あぁ、今日の放課後がすっごく嫌になった。