「・・・もう限界!!!」
 私の言葉に、隣の席に座ってた親友のが「はぁ?」ってマヌケな声を出した。
?なんなの??」
「もうやだ・・・転校するわよ!!」
「はぁっ!?ちょっ、!?」

 私が歩いていき、が後を追ってくる。
 さっきまで私たちがいたところには、たくさんの男が倒れていた。

 こういったバカな男達が来ないように、私のことを知らない学校に転校してやる!!





学ランとセーラー服 【転校先】





「・・・ココが、新しい生活の始まり・・・」
“並盛中”という名前の学校は、聞いたことが無い。
 電車で5駅向こうの学校なんて興味が無かった・・・けど、私は今日からここの生徒。

「ねぇ、またその格好で行くの?」
 呆れたように私を見たは、並盛中のブレザーを着用している。
「フフフ・・・これの方が似合って見えるの!」
 打って変わって私の格好はセーラー服。白色に黒のセーラー、赤のリボンが目立っていた。
 同じ黒に赤のチェックが入るスカートを揺らす。
「戦いやすいし、敵が一気に集まって来るような気がしない?」
「・・・な〜るほど。で、“アレ”も持ってるの?」
「勿論」
 腰に挿んである“アレ”を触る。ちゃんとあることが確認できたことだし・・・
「よしっ、行こう!!」
「ハイハイ」
 私たちは、初めてその学校の門を潜って行った。


 中は前の学校とそう変わらない。
 職員室に行く前に、私が一言釘を刺しておいた。
「・・・。家のことは内密にね」
「え、言わないの?」
「勿論よ!!何のためにこんな遠いところまで転校してきたと思ってんの!?」


 私の家は普通とは少し・・・いや、かなり違う。
 何処が違うのかというと・・・まぁ、それは後に説明する。


、かなり目立ってるよ」
「いいの。こんなこと慣れっこよ」
ブレザーの中、一人だけがセーラー服を着ている。
 当然すれ違う生徒は勿論、殆どの人が私を見てるだろう。

 実際、担任に会って一番に言われた言葉も
「んなっ!!!なんだその格好は!!!」
 なんて、凄くマヌケなもの。
 真面目に返した私も私だけどね。
「わざとです、先生」
「いや、お前それは・・・風紀委員が黙ってないと思うぞ?」

『悪いことは言わないからすぐに着替えなさい』
 そう言いたげな担任の表情だった。
「先生無理。ごめんね」
「・・・そーか・・・」
 わざと敵を寄せ付けるために着てんだから、脱いでどーすんのよ。
 唯一、双方の気持ちがわからないことも無いはただ苦笑してただけだった。


 ざわつきは教室内でも起こった。
 だけど私は顔色一つ変えない。慣れたもんよ、こんなざわつきなんて。

です。よろしくお願いしまーす」「 です。よろしくお願いします」

 私との紹介が終わり、席が決まる。
 指定されたところは窓際の一番後ろ、はその前だった。
 ・・・気のせいだろうか。
 席が決まった途端、みんなが蒼白な表情をしたのは。

 座ってから気付いたけど、隣の席の人が居ない。
 あーサボりか。
 いいなぁ、私もサボりたい。

 なんて思ってると、ホームルームの終わりを告げる鐘が鳴った。



「「さん!!!」」
「・・・へ?」

 私と・・・いや、私の席に切実な顔をしたクラスみんなが集まった。
「お願いだから今すぐちゃんとした制服を着て!!!」
「はぇっ!?」
 クラス中で懇願されることなのかな。
 私一人の責任なのに。
「えーっと・・・悪いけどソレは出来ないなぁ・・・」
 すると女子が一人もっと近づいてきた。
「ダメ!!!帰ってくるまで着替えないと、ヒバリさんが」
 そこまでいいかけたとき、もう一つ声が聴こえた。


「僕がなんだって?」


 途端、クラス内がシーンと静まり返った。
「・・・なんなの?」
「さぁ?」
 私とがこんな会話をしたのは言うまでもない。

「僕の机の近くで群れないでよ。咬み殺すよ?」

「ひっっヒバリさん!!!!!!」
 殆どの人がその名を呼んで、道を一斉に開けた。


 なるほど、この人が頂点って訳か。絶対に私に突っかかってくるわよね。
 案の定“ヒバリ”って人は私を見て目を丸くした。

「誰?君」
。今日転校してきたのよ。よろしくね」
「ふーん」
 不機嫌そうな顔で言われた。
「ちょっと応接室に来てくれない?」
 その言葉にざわつきが復活したけど、私は目を逸らさない。
「・・・いーよ」
 寧ろ、なんか楽しくなってきた!

 席を立ち、に一言。
「心配してないでしょーね」
 彼女は笑っていた。
「アンタにする暇があったら自分にするわ」
「あははっ♪」


 ヒバリって人の後ろを付いていき、騒がしい教室のドアを閉めた。
 この人強そう。
 私の直感って当たるのよね。
 元いた学校よりも楽しみを得られるような気がした。
 ビビらないかって?ビビるわけないじゃない。
 私の家は任侠集団“大朱華組”。
 絶対1度は聴いたことがあるほど有名な組なんだ。
 泣く子も黙るヤクザの組長がお父さんなんだから、中学生なんかでビビるわけないじゃない。

 満面の笑みで付いていくと、ヒバリって人はふと立ち止まった。

「入って」
「ありがとう」
開けられたドアの向こうに行く。
バタン、と乱暴に閉められた。
 応接室の中は、とても広い。
 革張りのソファとか、充実してる。

「とりあえず座って」
「うん」
 ソファに座ると、ヒバリって人は向かい合わせのソファに座る。


「それ、前の学校の制服なの?」
「う〜ん・・・というか、前の学校もこれで過ごしてやったから」
 だって、セーラー服が何かと一番やりやすい。

「・・・ブレザー着て来てくれるよね?」
「なんで?」
「僕これでも風紀委員長なんだ。ブレザーが規則になってる」
 でもさぁ、この人・・・
「あなたはどうなの?学ランじゃない」

 私が言うことも分かるでしょ?
 だってこの人、規則はブレザーなのに学ランを羽織ってる。
 左側に『風紀』って書いた腕章をつけてるけど、説得力ないなぁ〜。

「僕は例外」
「そんなの通用しない」
 何を言われようと脱ぐ気はしないからね。


「あなたがそれ脱がない限り、私も脱がない」
 ヒバリって人は私の意見に薄ら笑いを浮かべた。
「僕にたて突いたのは君が初めてだよ。じゃあ実力行使しかないようだね」

 チャキ・・・ン、と何かを組む金属音がした。
「ほーぉ、仕込みトンファーなんて持ってていいの?」
「君には関係ないだろ?」

 私は素早く腰に手を当てた。
 ヒュンッと音がした方に引き抜く。

 
ガキィィン!!
 金属がぶつかる音が応接室中に響いた。

「ワオ」
 ヒバリって人の嬉しそうな声が漏れる。

「女の子に暴力は宜しくないわねぇ」
 したたかに微笑んでやった。
 ヒバリって人が見ているのは、私が持ってたもの。

「笛?」
 真っ白で装飾がしてあり、少し長めの笛。
 仕込みトンファーを止めたのはコレ・・・私の相棒。

「すごいね、君」
「お互い様でしょ」トンファー仕込んでるんだから。
 と言いながら腕時計を見ると、もうすぐチャイムが鳴る時間。

「きゃー!!!もう一時間目始まっちゃう!!」

 立ち上がってドアに向かう。

「そうだ」
 けど、振り返ってもう一度微笑んだ。
「私セーラー服やめないよ。一気に敵が来るだろうし、こっちの方が戦いやすいのよねー」

 あなたもでしょ?と付け加えると、少し考えたのか黙ってそれから
「しかたないな。じゃー君は例外にするよ。」
「ホント!?有難う!!」
 やっぱり。
 なんかこの人、私と同じ感じがする。

「ね、あなたの名前は?」
「僕は雲雀 恭弥」
 あらかじめ訊いてくる事が解ってたのか、即答された。
 だけど私は笑顔のまま。
「改めて、私は !これからよろしくね!」

 それだけ言って、応接室を出て行った。





「・・・ふーん、面白いのが来たな」

 そう言った雲雀の声は、聴こえなかった。