何か、引っかかる。
 目を閉じれば浮かんできそうで来ない・・・光景がある。
 コムイさんは、黙って微笑んでいた。
 その微笑みが「言えない」と告げていたことくらい、私にはすぐ解った。





Cherish ――― Hypnotic






「詳しくは知りません」
 アレンの声だ。
「ただ、は過去の記憶を封印しているみたいです」
「封印だって?」
 ラビが食事の手を止めて目の前に居るアレンを見た。
「なんでまた、封印なんて回りくどいことをしてるんさ?」
 首を捻ったアレンは、一言だけ、言った。
「・・・消せないほど重要だとか?」


 目を閉じると、ぼんやりだけど浮かんでくる。
 だけど・・・凄くぼやけてて解らない。
 黒髪の背の高い人が居た?
 でも、この夢がなんなのかわからなかった。

 やがてそれは徐々に白くなり、やがて光を浴びたように真っ白に見えなくなった。



「・・・ちゃん、目を開けて良いよ」
 その言葉を聴いて、目を開ける。
「・・・あ」
 ポロポロ、と何故か涙が頬を伝っていた。
「あれ・・・?」
「混乱してるんだよ」
 封印する時はよくあることだよ、とコムイさんは優しく微笑んでくれてるけど・・・

 涙を止めたかったのに、止めることが出来なかった。




「・・・ラビ、そんなに気になるんですか?」
 アレンの言葉を聞いて、ラビはふと我に返る。
「・・・なんつーかさぁ、の過去って聞いたことねェよなー」
「そうですね。誰も何も言いませんし。」

 ラビの言葉だ。
「なぁ、アレン。は今何処で封印術をしてるんだ?」
 きょとんとしたアレンは「療養所だと思いますけど?」と疑問で返した。
 ニッと笑ったラビに、向かいの席の少年は悟った。
「まさか・・・今から行くんですか!?」
「そのまさかさ〜♪」
 そそくさと片付けて食堂を出るラビを、慌ててアレンが追って行った。




 その頃、封印術を終えた私はコムイさんを手伝って後片付けをする。
「コムイさん、忙しいのにいつも有難うございます」
 するとこの人はいつも優しい笑顔を返してくれるんだけど・・・今日はそれだけじゃなかった。
ちゃん、後ろ」
「へ?」

 振り返った私はそのまま固まってしまった。

、修練しようぜ!!」
 そう言って無邪気な笑みを浮かべているのは・・・ラビさん。
「ラビ!まだやってるんじゃないんですか!?」
 と、後ろで冷や汗を出しているのは・・・アレンさん。
 私はあらん限りの声を出してやった。

「・・・あんたたち、なにしてんのよ!!!!!!」
待ち♪」
「何が“待ち”よぉぉっ!!!アレンも見ててよコイツ!!!」
「はぁ・・・で、終わったんですか?」
「いや、終わったけどさ・・・」

 なんか怒鳴ってる私が大人気ないみたいじゃない。
 コムイさん、後ろでクスクス笑ってるの解ってますから。
「じゃあコムイさん、後頼んでいいですか?」
 こいつらを引き取るんで、と言うとコムイさんは笑いながら快諾してくれた。
 全く、アレンとラビが来てから騒がしいったらありゃしないわ。

 ・・・でも、いつの間にかこの騒々しさを好きになってたんだけどね。



 相変わらず、ぎゃあぎゃあ言いながら療養所を離れる。
 そんな私の後姿を見てたのはコムイさんで・・・なんだか悲しそうな表情だったのに気付かなかった。

「・・・ヘブラスカ、いつまであの子のイノセンスを封印しておけばいいんだい?」
 当然ヘブラスカはいない。
 返事がないのが当たり前のように、哀しい笑みを浮かべた。




 何も知らない・・・何も憶えていない私は、コムイさんとは対照的な笑みを浮かべていた。