「帰ったら、何をしよう?」
 ふと私は船の中で考えた。
 う〜ん、アレンに会いたいなぁ。あ、リナリーちゃんにも!
 コムイさんにも会わなきゃ。・・・でも神田に会ったらどうしよう。

 とりあえず・・・食堂だよね!!





Cherish ――― Opening






 今回の任務は至って簡単だった。
 イノセンスかどうか見てくるかだけ、しかもイノセンスじゃなかった。
「最近つまんないなぁ〜・・・」
 ボソッと呟いただけなんだけど、ファインダーさんには聞こえてたみたい。
 暗がりの船はやがて岸に辿り着き、食堂に向かうべく私は歩き始めた。

「疲れたぁ〜・・・」
 この薄暗い廊下を歩いてると、帰ってきた感じがするなぁ。
「ジェリーさんにパエリア作ってもらおう!」
 さっき行ってきた街に美味しいパエリアのお店があったのよね♪
 でもジェリーさんの方が美味しいだろうけど・・・あれ?

 向こうから、知らない人が歩いてくる。
 赤毛?それにバンダナか何か巻いて・・・え、眼帯!?船長!?
 でも、胸にある十字架はエクソシストの証だし、仲間だよね?

 徐々に近づく。
 うぅ〜話しかけたい!!好奇心旺盛の血が騒ぐ!・・・でも。

「楽しそう!」より「怖い」と私の脳は認識したみたい。

 サッと目を逸らす。・・・触らぬ神に祟りなし!
 私はただひたすら真っ直ぐ前を見据えて歩いた。

 だけど、気になるってもんよ。
 チラッと見てしまった。(私のバカ!!)
 少しだけだったのに、その赤毛の背高と目が合ってしまった。

 ニコ、と微笑まれる。
 あうっ!どうしよう!微笑み返した方がいいの!?
 瞬時に考えた結果、すれ違うときにペコリとお辞儀だけしといた。

 それにしても、あんな人初めてみた。
 眼帯って・・・目を書きたくなるなぁ。
「あ、もうすぐ食堂だ!!」
 だけど私はジェリーさん特製パエリアに魅せられてその人をすっかり忘れてしまった。





「ジェリーさんこんにちわっ!!」
「アラ〜?まぁちゃんじゃないっ!!」
 フライパンを振り回していたジェリーさんは嬉しそうに言ってくれた。
「パエリア作れますか?」
「もちろんよ!!暇してたところなのよ〜〜!!」
 ジェリーさんはそう言って、すかさず料理に取り掛かってくれた。

 確かに・・・お昼を過ぎた今の時刻にご飯を食べに来る人なんていない。
 ガラガラになってる席の中心ら辺に座り、パエリアを待ってみた。
「それにしても・・・暇だなぁ」
 やっぱ本部に帰ってきても暇だった。
 それでも疲れはあったから、机に思いっきりうつ伏せた。
 ・・・そういや、さっきの人はなんで私に微笑んだんだろ?
 単に目が合ったから?あや〜、わかんない。
 このままうつ伏せてたら寝そうだなぁ、そろそろ起き上がるかと思ったときだった。

?」
 ふと呼ばれ、顔を上げてみる。
「・・・アレンだ」
 白髪で、額にペンタクルが刻まれてる。
 アレン・ウォーカー。私の友達の一人なのよね。

「帰ってきてたんですか?」
「うん、まーね・・・」
 アレンはどうしたの?と訊くと、彼は苦笑して「僕はこれから食事なんです」って言った。
 修行かなんかしてたのかな??
「じゃあ一緒に食べよう!」
「そうですね」
 後にジェリーさんの“出来たコール”が聞こえるまで、私は今までの任務をアレンに話した。

 アレンといえば、白髪だよね。
 私はなんで白髪になったのか訊いたことがない。
 本当は訊いてみたいんだけど、過去の傷をえぐるようなことはしたくないの。
 ・・・あれ?私もそんな過去の傷があった気がしたんだけど・・・思い出せないや。

 白髪って聞くと「老人」って思ってしまう。
 だけどさぁ、アレンの髪は綺麗だなぁ何て思うのは、私だけだよね?
 ・・・・だから言ったことはないけどさ。


「アレン、相変わらず良く食べるのね」
 パエリア一つある私の隣には、かなりの食器が並んでる。
 だけどアレン自身は自覚してないみたい。
「そうかな?」ってきょとんとして自分の前に並ぶ食器を見ていた。

 やがて、パエリアも底をついた。
「ごちそーさま!」
 パンッと両手を合わせ、アレンの方を見る。まだかなりの料理が残ってる。
「アレン、先に行っていいかな?」
「えぇ、もちろんです」
 勢いよく食べながらアレンは微笑んでくれた。
 やっぱこの人優しいよねぇ〜・・・あ。
 立ち上がったままで悪いけど、私は尋ねてみた。

「ねぇ、リナリーちゃんとコムイさんは何処に居た?」
「多分二人とも研究室だと思いますよ」
「そっ!ありがと♪」
「あ、!」

 アレンの呼び止める声も聞かずに食堂を出てしまった。

「・・・神田も居ると思いますよって、聞こえないよね・・・」

 その言葉を聞いてた私は、きっとアレンが食べ終わるのを待ってから付いてきてもらっただろう。





「研究室〜♪リナリーちゃんとコムイさんにー会わなくちゃ〜♪」
 でたらめなメロディを口ずさんで、目指したのはコムイさんたちが働く研究室。
 そこで私は硬直してしまうのだった。

「リナリーちゃんっ!!」
「わっ!」
 後ろから抱き付いてやると、やっぱリナリーちゃんは吃驚したみたい。
 勢いよく振り向き、でも笑顔になってくれた。
?」
「きゃはは〜!!」
 さっきの驚きようは本当に面白かった!思わず笑ってたんだけど、
、只今帰還致しました!!」
「うわぁ、お帰り〜!!」
 嬉しそうに言ってくれるのはリナリー・リーちゃん。
 私の大親友!!黒髪を二つにくくってる、とっても可愛い女の子なんだ♪

「早速だけど、コムイさんに報告しなきゃ。何処にいる?」
「え、兄さん?そこにいる、けど・・・」
 指を差すリナリーちゃんは少し動揺してる。
 だけど何も思わずに彼女が差したほうを見て・・・硬直した。

「げ、神田・・・」

 コムイさんとたった今話し終えた、ポニーテールの人。
 神田 ユウって言うんだけど・・・はっきり言って私はこの人が苦手。
 うわ、こっちに来る!!
 私は咄嗟にリナリーちゃんの後ろに隠れた。

 神田はというと、ちゃっかり私の行動を見てたみたいで・・・あからさまにムッとしてる。
「てめぇ、わざとだな?」
「きゃ〜怖いっ!」
「ちょっ、?」
 リナリーちゃんにガシッと付かんだ。ごめん、リナリーちゃん。

 すると不意に、頭に違和感が走った。
 ガシッと掴まれたかと思うと、そのまま強く撫で(?)られてる。

「相変わらず小せぇな、チビ」
 それだけ言って、すれ違う。

「リナリーちゃん・・・怖かった・・・」
って本当に神田が苦手なのねぇ」
 リナリーちゃんはそう言いながら、ボサボサになった後ろ髪を整えてくれた。

 だって神田ってば、いつもブスーッとしてるんだもん!!
 人間が小さいって言うか、とにかく怖い・・・。


「おーいちゃん」
 呼ばれたのはコムイさんが居たほう。
 ・・・そーだっ!!コムイさん忘れてた!!!
「はいっ!!」
 勢い良く振り返ると、コムイさんが笑顔で手招きしてた。

 私はコムイさんに釣られて笑顔になり、任務の報告をしに向かった。