もしも逢えたなら、彼女にだけは誓えます。

 永遠の恋人に、なれることでしょう・・・。





Beatrice -永遠の恋人-






 翌日、何も変わらず朝日は昇っていた。
 最初に起きたのは夜中と同じ、アレン。
 起きたものの、ラビとどう接したらいいか迷いがあった。

「・・・ラビ、本気で・・・」
 今安らかな寝顔を見せるラビは、昨日泣いていた。
 そんなラビの姿を初めて見て、そして本気でを愛していたこともわかった。
 だからこそ・・・突然の別れを目撃したアレンにとって、どう笑いかければ良いのかわからない。

「励ました方がいいのかなぁ・・・」
 完全に独り言を言っていると、ラビが身じろいだ。

「ん゛〜・・・なんだ、アレンもう起きてたんか?」
 第一声を始め、ラビの様子はいつもの通りだ。
 まるでの存在すらないようで、あっけに取られたアレンは呆然と彼を見つめてしまうほどだった。

「なんだそれ!!その寝癖最高さ!!」
「へっ!?何が最高ですか!!」



 “”が居ない朝も必ずやって来る。

 ごく普通なラビに、アレンも大丈夫かと安堵の表情を見せた。

 立ち上がり、大きく伸びをしたところで、窓から銅像が見える・・・伸びをしたまま停止した。



「・・・あれ!?」
「んー?どうした?」

 顔を洗っていたのか、洗面所から出たラビはタオルを持っていた。
 しかしアレンはそんなことに答える余裕は無かった。

「アレン?なに急いで着替えてんだ?」
「良いからラビも着替えてください!!」

 急いでラビに団服を渡し、バンダナを付ける時間すら与えないでアレンはラビを引っ張りだした。


 向かった先は、天使と出会った場所。・・・そして、と別れた場所。
 銅像の前に経ったラビは、吃驚した表情を隠すこともしなかった。





 像が、変わっていた。




 空、花畑など背景は変わっていなかったが、他が微妙に違っている。
 うずくまっていた少女は立ち上がり、とろんとした漆黒の目を細めて微笑んでいた。
 その目の向こうに居たのは年上の青年。彼も少女を愛しそうに見つめていた。

 ・・・2人の右手が、繋がっている。

 呆然と銅像を見ていたラビを、呼んだ。
「ラビ、見てください 」

 アレンが指したのは、銅像の前に掲げてあったタイトル。





 “ Beatrice:永遠の恋人 ”

 二つの言葉でそう書かれていた。





 呆然と、昨日の様子と被せながら見ているラビを、ふとアレンは見る。
 そして気付かれなかったが、驚いた表情になった。


 左目だけが映っている映像では、ラビの右手に触れているの姿が映った。
 銀の髪が揺れ、うつろな漆黒の目は像の少女と同じく細めている。
 今までの少女と違うのは、後ろから広がる真っ白な翼だった。

 はとても愛しそうにラビを見つめていて、ふとアレンに気付いた。目が合うと微笑む。

「プレゼントだよ」
 アレンの耳に、確実に聴こえたのは、昨日聴こえた高い声。

 に微笑むと、ラビが不思議な目でこっちを見た。
「アレン?何オレに微笑んでるんさ?」
 辛そうに、でも笑顔で訊くラビに教えてやろうかと思ったけど、隣のが片手を口に持ってきた。



 “ 教えちゃ、駄目 ”



 スケッチブックが無くても、アレンには伝わったみたいだ。

 とても仲の良い“永遠の恋人”たちに、優しい微笑を向けた。

「・・・なんでもないですよ」










 何処からか、風に乗ってやって来る。


 いつか聴こえた優しいピアノの音と、あの頃共に奏でたはずの聖歌。


 “ ねぇ、ラビ 永遠の恋人になれる? ”


 訊けなかった問いを浄化してくれた聖歌は、今も誰かが奏でてる。