少女は眠っていました。

 少年は愛しそうにその様子を見ています。





Beatrice ――― parere -助言-






 今回の任務は、アクマたちが集まって壊そうとする“像”を護ること。
 アクマが壊そうとしているから、イノセンスかと思ったのだろう。
 イタリアの小さな街。そこへ向かうため、を含めた3人は汽車に乗った。

 ガタン、ガタン・・・
 規則正しい動きを続ける汽車には少し眠くなったのか、うとうとと目を細めていた。
、寝たら良いさ」
 ラビの声に頷き、やがて目が瞑られた。
 隣に居た彼の肩に持たれ、やがて寝入ったように規則正しく胸が上下された。
 そんな姿を見ていたアレンは堪り兼ねてラビに一言。

「ラビ・・・のことが好きなんですか?」

 まさかアレンがそんなことを言うと思っていなかったらしく、ラビが驚いた表情を見せた。
 しかしすぐに苦笑いをし、首を横に振る。
「さぁ、オレのタイプはもっとセクシーな女性なんさ。・・・ただ、」
「ただ?」
「放っておけねぇわな。」
 ラビの言葉に、アレンも苦笑いを返す。
 普段、と一緒のラビを見てきたアレンには既に解っていた。

「でも、とても大事にしてますよね。」

 ラビが向ける、一番優しい笑顔。
 は全て独り占めしていた。

「そうかぁ?フツーだろ」
 なんて笑いながらも、気持ち良さそうに眠っている少女の銀髪をゆっくり撫でていた。
 それがアレンにはとても愛しそうに見え、思わず微笑んでしまう程だった。


 何も知らない、声すら発せない少女を見る。

 瞑られている目は笑顔になっていた。


「大事なものは無くなる前に気付かないと、いざ無くなったときに困りますよ」

 アレンの言葉は深いものだった。
 現に彼も、昔大事なものを亡くしたことがある。
 “マナ”・・・彼の父だ。
 亡くなった後で大切な存在だと気付き、だからアクマにしたという理由にもなっている。

 ラビには、伝わっていないかもしれない。
 でもアレンなりの“助言”だった。

 アレンは見ていなかったが、一瞬・・・たった一瞬ラビの瞳に翳りが見えた。
 彼も、何か昔無くしたものがあるのだろうか。
 すぐに翳りは無くなり、あははっと笑う。

「そうなん?くれぐれも気をつけるさ。」





 少女にはわからなかった。

 ただ・・・二度と解らないならそれで良いと、そう思うだろうか。

 そろそろ、汽車が目的の場に着く。