波乱がやってきました。
少女にも、例外では有りません。
がやってきて、1ヶ月は過ぎた。
最初は表情がなかった少女にも、徐々にそれは付いて来た。
ラビの前だと、さらに拍車がかかったようだ。
「、どう?慣れた?」
研究室の椅子に座って頬杖をつくラビ。そのとなりで右手を握っているのは。
暇なようで科学班の研究室に来たのだが、そこで手伝っていたリナリーから言われた言葉だった。
ははにかんだ笑顔を向け、頷く。
しかし、途端に暗い表情に変わった。
見かねたラビが代わりに言う。
「実はさ、一人だけ上手くいかねぇらしいんさ」
「一人?誰??」
きょとんとしたリナリーに、笑いながら答えてやった。おかげでが隣から睨んでいる。
「ユウさ」
「神田?」
意外そうに返したリナリーに、が何か訊きたそうだ。
スケッチブックを取り出し、サササッと書き上げた。
“怖い。いつも睨まれるし”
横から盗み見したラビは再び笑い出し、今度はリナリーさえも笑い出した。
「そうね、確かに目つきは悪いわ」
でも、と続けた。
「あーいう人だから、悪気はないよ」
・・・悪気がなくてあんなに怖いなんて。
の目に涙が溜まりだす。
それほど神田とは馬が合わないようだった。
流石に、泣かれたら困ると思ったラビが慰めようと思ったその時。
バタンッと乱暴にコムイさんが入ってきた。
バタバタと慌しく、モニターの方に全員集まってきた。
「エクソシスト・全員外に出て欲しい!」
コムイの言葉がスピーカー中に広がった。
リナリー・ラビもモニターの方に集まる。勿論も着いてきていた。
「なっ・・・んだよこれ!?」
思わず絶句した。
エクソシストの敵側となる、“AKUMA”。
レベル1でも、かなりの量で来られると手こずってしまう。
そんなアクマが総勢約100体ほど教団本部に向かっていた。
リーバーの声がスピーカーから流れた。
「至急エクソシストは外に出ろ!!大量のアクマが迫ってきている!!」
以外、全員が焦っていた。
なんせ、今は分が悪すぎる。
滅多に本部を攻めに来ないアクマが、今日に限ってやってくるなんて、誰が思う?
さらに本部内のエクソシストのうち、アレンを含む3分の2は出払っていた。
イノセンスの探求など、色々な理由からだったのだが・・・厄介だ。
「!此処に居ろよ!!」
リナリーが先に出て、ラビが急いでそう言った。
素直に頷いただが、焦るラビが向かった先が気になる。
・・・敵。
は認識した。
科学班も大忙し。
現にコムイとリーバーも机と机を行ったり来たりしていた。
チャンス、とばかりにはそっと歩き始めた。
そっとドアを開け、バタンと閉めても・・・気付かれないほど混乱していたようだ。
暗い廊下をタタタッと走る。
窓から見ると、もうアクマが到達してるみたいだ。戦闘の音が響き渡る。
何十階か上に上がり、は丁度良い窓を見つけ出した。
ここからだと、丁度敵をやっつけられる。
の虚ろな目が少し開いた。
窓を開け、足をかける。
タンッ
軽快な音が響いた。
は重力に逆らわず、下に落ちていった。
「っ!?」
その声に気付いたのはラビ。
対アクマ武器である槌を振り回しながら、
「リナリー今って言ったんか!?」
「ラビ!見てあそこ!!」
空から降りてきたリナリーが指を差す。
そっちを見たラビは、胃が畏縮するのが解った。
ラビの方に見向きもしないは、虚ろな目を向けて敵の数を数えた。
そして空中でしゃがんだようにし、何もないところでタンッと音を立てて浮き上がった。
4対いるアクマに向かって手を出し、ススススッと素早く触った。
口を動かす。
バコォォッ!!!!と大きな音と共に、4対のアクマは全て崩れ果てた。
次々へと触っては崩していく。それをエクソシストたちへ見ていた。
地につかないように、タンッと音をして再び浮き上がる。
天使・・・。
ラビとリナリーは思わずそう思ったに違いない。
いや、エクソシストたち全てがそう思っただろう。
銀の髪が月明かりを浴びて綺麗に輝く。
バコォォッ!!!ドゴォォォン!!!と不釣合いな響きも聞こえるが、
天使を見ている時間は充分にあった。
が触っていったアクマは、口を動かすたびに崩れ果てていったからだ。
残り20体程となっていたアクマは、全て瓦礫へ・・そして砂となって、風に乗って流れていった。
タンッと高く大きな音を立て、銀髪の少女はラビの前に着地した。
「・・・、お前無茶すんなって!」
ラビの言葉に返すように、笑顔を向けた。
の笑顔を見てホッとするラビは、本当に彼女を大切にしているようだ。
は後ろに誰がいるのかも解らずに、ラビのほうを向いていた。
おかげでバシッと痛々しい音が響くことに鳴る。
「・・・!!!」
振り返ったは頭を抑え、涙目になっていた。
此処で睨まれる、と思っていたは、意外な事にきょとんとしてしまう。
少し微笑んだ神田は、殴ったところをぐりぐりと撫でた。
決して優しくはなかったが、睨まれることはなかった。
少女は、全員を認めさせる力を持っていた。
イノセンスでも、アクマでもない・・・不思議な力を駆使した。
今、あの頃認めた相手は彼女をどう思っているだろうか・・・?