誰が、予想したでしょう?

 何も話さない少女には、ある秘密があったのです。





Beatrice ――― scritto -書かれたもの-






 翌日、少女はコムイに呼ばれて司令室に向かっていた。
 15歳ほどの少女は、とても素直に呼ばれた部屋に行った。

 しかし、余計なものが3つ・・・いや、3人。

「オレも行っていいんか?」
 右手を掴み、隣を歩いていたラビの言葉だ。
 少女は微笑まずに彼のほうを向き、頷く。そして再び前を見据えた。

 ラビは少女の希望もあるため、例外とされるなら・・・

「何でお前まで着いてくるんさ?」
 呆れた表情で振り向いた先に、にっこりしていたアレンが居た。
「僕が連れてきたんですよ?」
「懐いてるのはオレさぁ」
「僕も来ちゃ駄目ですか?」
 少女はふるふるっと首を振った。

 アレンの勝ち。一喜一憂する2人が、はたから見ると可笑しい。

 司令室を開けると、もう一人の“余計”が居た。
「来たわ、兄さん」
 リナリーだ。にこっ、と微笑むと少女も微笑み返してくれた。

 司令室は足の踏み場がない。
 確か着くまでにラビが言っていた言葉だ。
 その通り、司令室の床中にいろんな資料が広がり、足の踏み場すらないのだ。
 しかし全員が気にせず踏み進むため、よほど障害物にはならなかった。

「やぁ、来たね」
 と少女を見たが、次に目線が上に上がる。
「・・・なんで2人も?リナリーまで」
「え、いちゃ駄目かなぁ」
 と恐縮するリナリーと違って残りの二人は当然のような表情をした。
「この子に了承は得ました」
「オレも〜」

 少女が笑顔になった。
 どうやらリナリーも居て良いようだ。
 彼女が言うなら、とそれ以上何も言わず、コムイは呆れながらも質問を始めるのだった。

「えっと、まず名前を教えてくれる?」
 少女は何も反応がない。
「・・・じゃあどうして森に居たのかな?」
 何も反応がない。
「・・・うーん、何か喋ってくれないかなぁ」
 やはり、反応はない。
「あ、喉が渇いたのかな?」
「んなわけねェさ」
 変わりにラビが答えてやった。

 少女は何も話そうとしない。
 少し厄介だなぁ、なんて思っていたコムイには解らないが、少し困ったような表情をしていたのだった。
 ふと、少女の黒目が下を向く。
 誰も見ていなかったが、閃いた笑顔をしたのは間違いなかった。
 膨大な資料が転がる中、少女は一枚だけ拾い上げた。
 机の上に散乱しているペンの一つを掴み、左手で何か書き始めた。

「ん?」
 呆れていたコムイを始め、ラビとアレン、リナリーも覗き込んだ。
 サラサラッと描いて、満足げに少女が掲げた。

 “私の名前は
 名前よりも、その行動全てに驚きを隠せなかった。

「・・・え、話せねぇの?」
 こくり、と頷く少女―――を、4人はどんな目で見たのだろう。
 とにかく、の不思議がどんどん広がっていく。
 それだけは確かだった。

「・・・じゃあ、何処から来たんだい?」
 コムイの言葉を聴いたは、ペンを持つが・・・すぐに置いた。
 そして目を真っ直ぐ見て、首を横に傾けた。

 “わからない”ということか。
 徐々に解り始めた。
「じゃあ、何で此処に来たのかな?」
 優しい言葉を投げかけるコムイ。彼の言葉が通じたのか、がペンを走らせた。

 “此処に行けって言われたから”

「誰に?」
 アレンだ。
 律儀にもアレンのほうを向いて、首を捻った。
 しかし首を捻りながらもペンを動かした。

 少し時間をかけ、最後に首をもう一度捻ってアレンに見せた。
 両隣に居たラビ・リナリー。そしてアレンのほうにやってきたコムイも目撃した。
「・・・クロス元帥さ」
「・・・だね」
「・・・大丈夫?アレンくん」
「・・・え、えぇ・・・あのバカ師匠・・・」


 が書いたのは、なにやら変なマスクをつけた人間だ。
 ボサボサで長い髪、そして長いシルクハット・・・アレンの師匠、クロス・マリアン元帥だ。

 あぁ・・・バカ師匠はまたしても僕を苦しめるのか・・・
 あのときのアレンは本当に涙目で可哀想だった。

「それにしても、何でクロス元帥はここに?」
「厄介ごとだからじゃねェ?」
「あ、ラビ。それ一理あると思います」
「それだけでこの子を?あのまま森に居たら餓死するところだったよ」
「うっ・・・あの師匠ならやりかねない・・・」

 が見守る中、急遽討論会が始まった。
 最初は傍観者に徹底していたも、何がなんだかわからないようだ。
 発言者を追うので精一杯のようだがふとアレンの腕を掴んだ。
 生身の腕を服の上から掴んだだけでも少し驚くが、それだけじゃなかった。

 の口が微かに動いた。
「え?ぅあっ!!」

 途端にアレンの膝が折れ、ドサッと座り込んでしまった。

「アレン!?」
「どうしたの!?」
 自分の足、そしてを見たアレンは何があったのか解らないようだ。
「・・・、何をやったんだ?」
 ラビの言葉を聴いたは、微笑んで近くの紙に書いた。
 そしてアレンにもコムイにも見えるように掲げる。

 “Suck in(吸引した)”

 心なしか、紙の上にある彼女の表情に生気が見える。

ちゃん、きみは・・・?」
 流石のコムイもこの少女に緊張を見せ始めた。
 しかしはというと、にっこりと微笑んでるだけだ。

「・・・体力とか生きる力を自分に取り込んだってか?」

 ラビの半信半疑な問いに、頷いてしまった。
 エクソシスト?とリナリーが訊くと、違うと言いたげに首を振った。





 人でも、エクソシストでもない、特別な能力。

 ・・・・・・少女には、不思議な力が備わっているようだ。