「・・・あれ?」

 白髪の少年が見つけたのは、銀髪の少女でした。





 Beatrice ――― entrare -始まり-






 此処は、ヨーロッパの何処かにあるエクソシスト総本部だ。
 通称“黒の教団”と呼ばれ、誰も入ることが出来ない。
 そんな塔の隣に生えている森にも例外は認められないのだが・・・アレンは呆然と見た。

 彼の視線の先には、今まで見たことがない少女が居る。

 銀色の髪は木々の隙間から降りる光に浴びてキラキラ光っていた。
 細く長く、絹のように滑らかそうな髪は地面に着いていた。
 実際少女は座り込んでいて、真っ黒なワンピースには土と葉がついている。
 どこか、神秘の雰囲気さえ感じさせてくれる少女は、何も言わず空を向いていた。

「・・・あの、どうしたんですか?」
 放っておけるほどアレンは冷たくない。
 恐る恐る尋ねると、上を見ていた顔が彼のほうを向いた。
 う、わ・・・凄く綺麗な目をしてる。
 思わずアレンが息を飲むほど透き通る、しかし真っ黒な目をしていた。
 銀の髪にとても合う、精悍な表情をしていた。
 しかし、何処か少女の表情は優れていない。

 少女は立ち上がったが、今にも倒れそうなほどフラフラしていた。
 アレンが急いで駆け寄り、支えてやる。
 何も言わず、少女はただアレンのほうを見た。
 とろんとしていて、虚ろな目をしている。

「大丈夫?」
 長いスカートにつく汚れを払ってやり、エスコートするように歩き出す。

 とりあえず教団に連れて行こう。
 アレンの考えはまとまった。





「・・・アレンくん、その子はどうしたの?」

 高く綺麗な声でそう言ったのはリナリー。
 隣には唖然としている兄のコムイ室長とリーバー班長。
 さらに他のエクソシストたちも集まってアレンと少女を囲んだ。
 しかしアレンは気にする様子もなく言った。
「森に居たんです。道に迷ったのかな」

 虚ろな目は、周りに集まる者たちを次々と映し始めた。

「リナリー、この子部外者だよね?」
「えぇ。でもいつ入って来たのかしら」

 少女が入る瞬間を誰一人として目撃していないため、誰も何も言えない。
 科学班を始め、少女が見つめる中、騒然とした会議が聴こえだした。
 同じく見ていたアレンは苦笑いを浮かべている。

 ざわざわと少女をどうするか皆で考えていたとき、能天気な声が聴こえた。

「なんだぁ?どうしたんさ、みんな集まって」
 リーバーの隣からひょっこり顔を出したのは、独特の訛りが特徴のラビだ。
 少女は新たな声がした方をすぐに見た。
 そして、歩き始めた。

「うわ!?」
 少女の両手はラビの右手を掴み、キュッと軽く握った。
 そしてそのまま彼の腕に引っ付いたのだ。

「ラビ!?」
 アレンの声を聴いた総員はバンダナをしてる少年を見た。
「な・・・何なんさ?」
 ラビは引っ付く少女、そして凝視するアレン、さらに仰天しているコムイたちを順番に見た。
 少女はネコのように懐いているようだ。

「ラビ・・・何をしたんです?」
「はぁぁっ!?オレなんもしてねぇって!!つかコレ何さぁっ!!」
 コレと言うのは銀の毛を揺らす少女のこと。
 途中から来た人にとって、他の言葉はないだろう。

 しかしコムイが言ったのは問いに関する答えではなかった。
「・・・追い出せないよねぇ?リーバー班長」
「それは無理っすね。この子にも事情があるかもしれませんし、イノセンスの適合者かもしれない」
「懐けばそれは仕方ないことだよねぇ?リナリー」
「そうね、しばらくおいてあげても良いと思うよ」

 何が言いたいのか、頭がいいほうのラビはすぐに解った。

「オイオイ・・・マジか?」

「まぁ、すぐに出て行くって♪」

 コムイの無責任な言葉も、すがりたいなんて思うとは。
 ラビは心の底で泣きそうになった。





 突如現れた銀髪の少女。
 ラビも内心ではすぐにいなくなると思っていた。
 しかし、いざいなくなる時になって・・・こんなに辛くなるとは、知る由もなかった。