タタタッと走る音。これは私の切羽詰った音。
 そしてその後ろからも聞こえた走る音。これは・・・鬼の。

 私は鬼ごっこの逃げる役に抜擢された。





Jackleg -未熟者-





談話室でのんびり寛いでいたときだった。
向こうから、何か聞こえてきた。

「ん?」
なんか、呼ばれてない?
他のエクソシストの人も聴こえたみたいで、
ちゃん呼ばれてるよ〜」なんて言葉が聞こえた。
呼ばれてるほうを見る。
・・・・・・どうやら、リナリーちゃんっぽい。


!!!!!」



大きく聴こえたと思ったら、ガシッと腕を持たれてバッと立たされた。
「なっ!?何!?」
「ラビから逃げてねっ!」
「へっ!?」
渡されたのは、1冊の本。
分厚くて重く、鍵がかかってる。
「ほら、早く逃げて!」
「えっ!?えぇっ!?」
リナリーちゃんに押され、私はタタタッとわけもわからず走り始めた。
なっ、なに!?これ!!


適当に軽く走ってると、後ろから猛スピードで走る音が聞こえだした。
私が全力疾走するのはそう遠い時間ではなかった。



っ!!!!!!!!!!!」
「わぁうっ!!!!」

なっなに!?
後ろを振り向きながら走ると、はるか彼方からダダダダッと凄い音が聞こえだした。

「げっ!!」
ラビじゃん!!


目を光らせ、向こうから迅速な走りをさせてこっちに迫ってきてる。



返せ!!!それはダメさぁ――――!!!!!!!!!」
「きゃあああぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


私も猛スピードで走ってしまった。
だってラビ怖いんだもん!!!つっ、捕まったら喰われるっ!!!



修練場を思いっきり走り過ぎ、各々の部屋も瞬く間に過ぎていった。




だけど、ラビは凄い形相で追ってくる。
ヤバイ、疲れてきた・・・
誰かに託そうかと思っても、みんながみんな拒否るしっ!!(涙)

とにかく、命の危険を感じていた私は頑張って走りまくった。

「・・・あれっ!?」
ふと、後ろを向くと・・・ラビが居ない。
「はぁ〜〜〜〜よかったぁ・・・」
はぁっ、はぁっ、とかなり息切れをしていた私は立ち止まり、そのまま座り込んだ。



それにしてもラビはなんでこの本のために追ってるんだろう。
じろじろ見ても、普通の本じゃん?
恐ろしかった・・・初めて見た、あんなラビ・・・。
「でも・・・後で返しにいこうかな。」
今は怖いし疲れて行けないから、と思ったとき。



ん?ギューンって音が聴こ・・・まさか!!



私は後ろを振り向いた。・・・予感的中。

「ひゃああラビのバカ!!!そんなのアリ!?」
私は再び走り出すハメに。


ラビのヤツ、今度は槌を伸ばして追ってきたぁぁぁっ!!!!


全力で走り出しても、疲れた私はあんまり速度が出ない。
さらに槌の早さには勝てない、絶対!!

すぐに追いつかれてしまった。

それでもリナリーちゃんのために頑張って走ってた!!!!!

後ろを向いて走ってたから、床にあるへこみでも躓いてしまう。




「あだっ!!!」
思いっきり躓いてしまった私は、とてつもない音を響かせて転んだ。
!?」
それにはラビも吃驚したみたいで、珍しくブレーキをかけて止まった。

「あ〜・・・」
ごめん、リナリーちゃん・・・もう無理!痛いし・・・
足よりも頭を打ったからグワングワンしていた。

だけどラビは投げ出してる本よりも私のほうに寄って来てくれた。
「ダイジョブ!?」
「ぅん・・・」
頭が左右に揺れてるけど、どうやら大丈夫・・・なよう。
私の答えにラビは安堵の表情をしてくれた。


こうして突如始まった鬼ごっこは、私がこけることで幕を閉じた。



ところで・・・気になってたんだけど。
「その本、なんでそんなに大事なの?」
するとラビは広いながら、
「いや、これブックマンのジジイの本なんさ。コムイが持って逃げやがってさー」
・・・なるほど。
コムイさんから始まり、リナリーちゃん・私と渡ったわけね。
そりゃ誰も手伝わないわけだ。

「ごめんね、ラビ」
すると、さっきの喰われそうな表情からは想像出来ないような笑みが帰ってきた。
「オレはパンダジジイの本よりもの方が大事さぁ!」
「・・・え」
頭のこぶを撫でられながら、少し複雑な表情をしてしまった。

ごめんなさいブックマン。私はラビより貴方に謝らないといけないんだと思う・・・。