錬金術であるからには、頼まれたら出来るだけしてあげる。
 だから今、トレインのためにハーディスの点検をしてあげてる。
 え?肝心のトレインは何処だって?
 黒猫は自由気ままだからね・・・何処かの公園とかでお昼寝でもしてるんじゃない?





それってジェラシー?






「・・・うん、問題なし!」
 問題があるとすれば、トレインの方ね。
 全く、何処にいるのやら。
 私は迷うことなく電話を取り出した。そしてヤツの携帯へと繋げた。
 ・・・3回目のコールでようやく出る。
「おー!どーした!?」
 元気な声を上げるけど、私にはわかった。・・・寝てやがったな。
「どーしたじゃないわよ。ハーディスの点検が終わったわ」
「マジか!!じゃあも来いよ!近くの公園にいるからよー」
 やっぱ公園だったか。でも私は肯定の声を上げた。
「わかった、持って行くね」
 切ってから準備し、下の階にいるスヴェンとイヴに言ってきた。
「スヴェン、イヴ!!トレインの所へ行って来るー!!!」

 言った後で2人は顔を見合わせて、
「帰ってきたからでいいのにね?」
「それだけトレインに逢いたいんだろうよ」
 なんて会話をしてたんだけど、私は知らなかった。



「あ〜・・・なんかハーディスとラピスの2つを持つと重いわ・・・」
 一時、2丁持ってみたいと思ったことがあるけど、やっぱダメだよね。
 ハーディス、そしてラピスを見比べながら私は公園に向かった。

 ・・・なんでだろ、トレインに逢いたかった。
 だけど、公園前で私の足は止まった。


「クロ様〜♪映画観に行きましょーよ〜〜!!!!」
「やだ。ってゆーかお前どっか行けよ!!!」
「せっかく偶然会ったのにつれないですよー!でもそこもかっこいい♪」
「だぁ―――もうくっつくなっ!!!」


 騒がしい声は、トレインと・・・キョウコちゃんだ。


 キョウコちゃんってトレインのことが好きなんだって。
 あーあ、ハートマークがいっぱいだわ・・・
 そういえば、リンスちゃんもそれっぽいよーな・・・なんか、なんかイヤ。
「帰りたいなぁ・・・」
 だけどトレインに『行く』といった以上、それは許されない。
 ハーディスを強く握り、歩き始めた。

「トレイン・・・と、キョウコちゃん」
 こんにちわ、と精一杯の笑顔を向けると、キョウコちゃんは
さんだ!こんにちわーっ!!」って手を振ってくれた。
、サンキュー!」
「どういたしまして。はい、ハーディス」
 と、渡した方はもう片方で握ってたラピス。

「・・・なぁこれ、ラピスのほうじゃねぇか?」
「へ?・・・あ」
 なにやってんだろ、私。
 ちゃんと“ハーディス”を渡してやると、トレインは真面目な顔で持ってチャッと音を立てた。
「・・・さすがだな」
 あ、無邪気に笑った。
 それを見て私は「当然でしょ。錬金術師だもん」って言ったけど、実は照れてたのよね。

「キャ〜かっこいいクロ様〜〜!!!」
 う゛・・・キョウコちゃんがいたんだっけ。
 キョウコちゃんってそんなにトレインのことが好きなんだ。

「・・・ねぇ、トレインの何処が良いの?」
 何気ない言葉に、
「なんだそれ!」
 ってトレインは言ってたけど、キョウコちゃんは・・・それはもう大きな声で。

「かっこいいじゃないですか―――――!!!!」
「そう?」
、なんか悲しいぞそれは・・・」
 あ、ごめん。
 別にトレインを落ち込ませるつもりはなかったんだけど。
 きょとんとしてたキョウコちゃんは、手をポンッと叩いた。
「そうだ!これからクロ様と映画を見に行くんですけど、さんも行きません?」
「へ?」
「オイ、誰が行くっつったんだよ」
「言ったじゃないですかー」
「言ってねぇよ!!!」

 映画かぁ、行きたいけど・・・なんかヤダ。
 ・・・あれ?何で嫌なんだろ?

 トレインの言葉にキョウコちゃんは
「行きましょうよ〜クロ様っ♪」
「だからくっつくなー!!!」
 はしゃぐようにトレインに抱きついてる。
 トレインだって怒りながらもキョウコちゃんに抱きつかれて嬉しいんじゃないの?

 ・・・ん?何怒ってるんだろ、私??
 ムカムカするけどわかんない。なんか胸がギューッてなる・・・。

ー?どうした?」
 見かねたトレインの言葉にドキッとする。
「う、ううん!2人で行っといでよ映画!!私は調合しないといけないし、ね?」
 頑張って笑顔を作り、そう行った。
 ・・・ごめんね。途中止めの調合なんてないのに。
「そうなんですかー・・・」
 キョウコちゃんは残念そうに言ったけど、トレインは私の方から目を離さなかった。

?」
「へ?」
 なに!?何処か可笑しかった!?普通にしたんだけど・・・
「・・・いや、なんでもねぇ」
「そう?」
 内心よかったぁ〜〜〜なんて思っちゃった。

 でもトレインとキョウコちゃんは2人で行くのかぁ・・・
 あぁ、なんかモヤモヤする。

「じゃあ・・・またね」
「はい、また会いましょう!!」
 私は踵を返して歩き始めた。
 このモヤモヤがなんなのか、イヴやスヴェンに訊いてみよう。



「それにしても、なんかムカつく」
 別に何がムカつくって言うんじゃないんだけど、・・・トレインがムカつく。
「トレインのバカ!」
 もうハーディス直してあげない!

 ・・・なんで?泣きたくなってくる。
 ムカついたり泣きたくなったり、なんなのよもぉ〜・・・。

「トレインなんて・・・嫌い」
 “本当は好き”とは、言えなかった。

「うそつけ」
「・・・・・・えっ!?」
 何でわかるの!?って振り向いた先にいたのは、呆れていたトレインだった。
「あれ!?トレイン、なっ何で!?」
が作り笑顔した理由が知りたくてな」

 うっ!気付いてたんだ!
 ヘタに言い訳をしても、トレインにはバレそうな気がした。
 笑われる覚悟をして私は口を開いた。

「・・・なんか、ムカつくの」
「はぁ?誰が?」
「トレインが・・・」
「俺!?何でだよ!」
 焦ったトレイン。別に、意味はないのよ。
「ムカムカしてさ、悲しいんだけど・・・何でなのかわからない」
「・・・なぁ、それ嫉妬?」
「はぁ?」
 途端にトレインは笑い出す。

 ・・・なに、
“嫉妬”って?

 愛もわからない私なんだから“嫉妬”なんて言葉知るわけもなく、
「ねぇトレイン、“嫉妬”ってなぁに?」
 トレインは笑いながら、
「そうかー、俺とキョウコに嫉妬か!」
「えっ!キョウコちゃんにも?!」
「違うのか?」

 ・・・言われてみればそうかも。
 でも、“嫉妬”ってなに?術書にもそんな言葉載ってないし、トレインは教えてくれないし!

「ねぇ教えてよトレイン!!」
「やだ。ほら、帰るぞ!」
 あっという間にトレインは歩いて私を追い抜く。

「・・・キョウコちゃんと映画に行くんじゃないの?」
 その言葉を聴いたトレインはニヤニヤしながら振り向く。
「行って欲しいのか?」
「へっ!?」
 そっ、そんなこと・・・わかってるんでしょ?

「欲しくない!」
「だろ?」
 なははは〜なんて変な笑い声をあげてる。
 うぅ゛、なんかアイツにしてやられた感じ。

「俺もと居た方が面白いしな!」
「・・・それ、どういうこと?」
「さぁなー。行くぞ!」
「う、うん!」

 ふーん、キョウコちゃんとより私と居た方が良いんだ。
 そう考えたら、とっても嬉しくなった。
 トレインって変なところが私より凄いんだから。
?帰んねぇのか?」
「あっ!待って!!!」

 ・・・ま、いっか。
 私は笑顔でトレインの元へ走っていった。


「ねぇトレイン、“嫉妬”ってなんなの!?」
「まだ行ってんのか?気にすんなよ、な?」
「ちょっ、教えてよ!!」
「まぁ頑張りな」
「あっ!トレイン!!!」

 トレインのやつ、一向に教えてくれない。
 ・・・スヴェンとイヴに訊いてみようかな。

 そう思った私を、トレインは知らない。