「・・・?」
 トレインの顔から、汗がどっと溢れる。
「へ?なに??」
 は、普通に返事を返すが・・・そうすることしか出来ないことは、自分ではわかっていた。

 彼女の背は、今やトレインの半分ほど。

「ど、どうするんだ・・・?」
「・・・どうしよう・・・」
 二人は、途方に暮れた。





調合中に失敗!(その1)






 それは、いつものことだった。
 は調合を趣味としているから、失敗なんて星の数ほどしている・・・が。
 自分が犠牲になることはなかった。

 振り返るのは、ほんの5分前。
 トレインはベッドから、真剣に調合をするを見ていた。
 調合中は、楽しそうに探検をするような表情の・・・それを見るのがトレインは好きだった。
 今日も、トレインの視線を浴びながらもは楽しんでいた。

「よーしっ!!スモールブレッド(幼小弾)の素の完成だっ!!」
「スモールブレッド?」
 試験管を眺めていた目を、トレインに向けては微笑んだ。
「スモールブレッドって言うのは、銃弾がぶつかる前に中の液体・・・要はコレね。
 コレが出て標的にかかるのよ。かかったら、数分間幼児の頃に戻るわけ」
「・・・その隙に捕まえるのか」
「そうよ」

 変身能力のような・・・しかし、物理的にそんなことが可能なのか。
 ・・・いや、偉大な錬金術師ならお手の物だろう。

「出来たら使わせてくれよっ!!」
「もちろん。トレインに使ってもらわないとねー」
 うーん・・・と、試験管を持ったまま、は背伸びをする。
 すると、当然両手も上に上がるわけで・・・
 さらに、試験管も傾いてしまった。


「はぁ〜疲れたぁ!!・・・え?」
 丁度、口を開いたとき・・・不覚にも、試験管から液体が零れたときだった。

「お、おいっ!!」
 トレインの叫び声虚しく、その液体は丁度の口の中に入っていった。
 だぁーっと、音を立てて・・・ということは、結構な量が入ったことになる。

「んんっ!!」
 は試験管を急いで提げた。
 残り、半分ほど・・・コレなら錬金術で増やせば良い。
、飲むなよっ!!!」
「んっ・・・・ごくっ」
 ガクッとトレインはこけてしまった。
 飲み込んだはというと、意外と冷静だった。

 ・・・いや、もう思考回路が停止していたのかもしれない。

「・・・ぃっ・・・!!頭いたっ・・・!!」
 急に来る痛みで、は座り込んだ。
っ!?」
 トレインが見守る中、はいつの間にか下に出ていた練成陣の光の中に包まれる。

「うわわ・・・」
 光の中で、はどうなっているのかは見えない。
 だが、トレインにはちょっと厄介なことくらい目に見えていた。


 やがて、光と共に練成陣は消えていった。

 徐々に彼女の様子が分かる。


「・・・?」
 座り込んでいたを見たトレインは絶句した。





 そして、物語は冒頭に戻る。





「うわっ、ぶかぶか・・・」
 はワンピースを工夫して、10歳児の体に合うように結んだ。
「お前・・・今、何歳になってるんだ?」
 トレインはを凝視している。
「んーと・・・10歳だ」
 自分の姿を鏡で確認し、はサラッと言いのける。
 立ち上がったはトレインの半分・・・いや、それより小さくなっていた。
 声は当然高く、幼い。
 更に、体などもそうだ。
 髪の毛は当時とても長かったらしく、ふくらはぎまで伸びている。

「おい、何でそんなに冷静なんだよっ!?」
「だって、スモールブレッドだもん。我ながら良く出来たわ」
「・・・コレだから錬金術師は・・・」
 黒猫は錬金術師に頭脳では勝てない。
 まさにそういえる会話だった。


「で、いつごろ元に戻るんだ?」
 は残り半分を見る。
「さぁ〜・・・でも、3分の1ほど飲んでるから3時間ほどで戻るかも。」

 答えを聞いたトレインはホッと肩を撫で下ろす。
 調合が失敗しても、それくらいで戻るのなら心配しなくてもいい。
 楽天家な彼は、そう思い込むことで納得した。
「で、どーするんだ?」
「遊んでくるっ!!」
「はァ!?ちょっ、おいっ!!!」
 子供姿のは、すぐに部屋を出て行った。

 このままであってたまるか。
 少し呆然とその姿を見ていたトレインだが、すぐにの後を追った。





 アジトを出たは、まず買い物に出かけているスヴェンとイヴを探すことにした。

「何処にいるのかなー!!」
 近くの店を流し目で覗く。
 4件ほど覗いて、は立ち止まった。
「いた」
 スヴェンとイヴは、楽しそうに買い物をしていた。

「スヴェン、イヴ!見てみてー!!」
 はにっこり微笑み、全速力で(といっても10歳だから少し遅い)走っていった。





「ったく、は何処に行ったんだよ!」
 トレインは自慢の跳躍力を発揮し、街灯の上に登ってを探していた。
 いつものならすぐに分かるのだが、今は子供姿のだ。
 小さいし、すばしっこいから見つからない。

「くっそー!!!」
 悔しそうにしゃがみこんだトレインは、何かを聴き取ってしまった。
 それは、街灯に近いところで話す黒ずくめの男達3人。
 よく見ると、その一人は50万イェンの褒賞金がかかっているハルク・ヴィンセンだ。
 確か・・・女児誘拐犯としてだっけ。
 トレインの頭の中ではいつしかそんな情報が浮上していた。

「おい、どのガキを誘拐するんだ?」
「・・・そりゃ、もちろん女だろ」
「お前ロリコンだもんな。悪戯とかするんじゃねーぞ」
「いいじゃねぇか、どうせ殺すんだし」

 街のど真ん中でそんな言葉を交わすとは、さすが誘拐犯。
 しかし、道行く人々は気付くこともない。

 掃除屋として降りるか、を探すために降りるか・・・
 トレインは街灯の上で頭を悩ませていた。

「・・・どーすっかな」





 そのころ、スヴェンとイヴを脅かすことに成功したは街を楽しそうに歩いていた。
 いつもと違う目線は、何処か新鮮で良い。
 ただ・・・この姿だと銃も撃てないし、ピアスの練成陣は使えない。
 銃を撃てば反動が厳しいだろう。
 そして、まだこの頃のはピアスに彫っている練成陣を使いこなすことは出来ないのだ。

「平和だから、大丈夫よねー」
 それでもは無邪気に微笑んでいた。


「お嬢ちゃん」
 ふと呼ばれて、は振り向く。
 そこに立っていたのは、黒ずくめの男が3人。
 ・・・そう、トレインが見ていた男達だ。

 3人は丁度標的を選んでいて、たまたまそこに楽しそうなが来た・・・というわけだ。
 いつものなら問題はないのだが、今は10歳に戻っている。
 3人の標的はに決まったということだ。
「なにか?」
「コレから用事はない?」
 やけに優しく接してくることに、は不信感を抱いている。

 あぁ・・・知らない人に連れて行かれそうなときって、こんな感じなんだ・・・。
 心の中で呟き、変わりにニコッと笑っておいた。

「私忙しいのよね。これから調合もしようと思ってるし」
「まぁまぁ、俺らについて来いよ」
「悪いようにはしないし、なぁ?」

 の細い腕を掴み、ぎゅっと握る。
 幼いは、それだけで痛みを感じてしまう。

 空いている手で後ろのホルスターに手を伸ばしたそのときだ。
 ドンドンッと銃声の音がして、男の顔に掠った。

「なっ!?」
 予想外のことに戸惑った3人は、何処から銃弾が飛んできたのかを知るために辺りを見回した。
 しかし、の腕を離す気はないらしい。

「だ、誰だっ!!!」

「ったく、なにやってんだよ、
 上から、声が聞こえた。


 ストンッ
 軽快な音を立てて、空からトレインが降りてきた。

「おージャストタイミングね、トレイン」
「ったく・・・街灯の上にいたこと気付いてたろ?」
「もちろんですとも」


 此処で、はホルスターから銃を出した。
 小さな体に不釣合いな銃は、の腕を掴んでいる男の手に向けた。
「放しなさい」
「ぅわぁっ!!!」
 男は乱暴にを押す。

「ぅわわっ・・・」
 後ろに下がったは、そこにいたトレインに支えられた。
「大丈夫か?」
「うん。で、あの人達どうするわけ?」
 指を差したほうには、走り出した3人組が。

 楽しそうにニッと微笑み、トレインは走り出した。
「はいはい行ってらっしゃい」
 そんな彼を見ながら、は微笑ましそうに笑った。





 無事、トレインがハルクを捕え、50万イェンを手に入れた。





 そして2時間後、は元の姿に戻ったのだが・・・

「あー楽しかった!こういうのもっと作ってみよーっと!!」
 などと言っていることは、誰も知らなかった・・・。



 歴史は繰り返される・・・なんちゃって?