飛び立つには、何が必要?
 この場から動くには、何が必要?

 答え ―― レシピ





リコシェ






 バサッと音が部屋中に響いた。
 ベッドの上には何十冊もの本が開かれ、転ぶどころか手を付く場所さえない。

「う〜ん・・・ここの物質はこうすれば冷えるから、冷やしたままこっちの物質を混ぜてみて・・・」
 ブツブツと声が聞こえる。
 だ。
 彼女は錬金術師であり、たった今調合中なのだ。
 しかし、いつもは本なんか一冊も見ないで調合をしているくせに、今日は打って変わって違う。
「調合は全ての原点だから使う必要がない」と言っていた錬金術も、調合中に何度も使っている。

「・・・出来たッ!!」
 薬を試験管に入れ、蓋をつける。
 そして、今までの経緯をメモをしていた。



ー、暇だ」
「んー?」
 あまりにも真剣にしているため、トレインの言葉も軽く無視をしている。
「・・・、お前何してるんだ?」
「あ、トレイン。いつの間にいたの?」
「・・・サッキカライマシタ」
「・・・ごめん、夢中になりすぎた」
 あはは、と苦笑いをした。
 そして、ベッドの上に置いてあった、いや、放置していた本を全て片付けると、机の端に置いた。
「で、何してたんだ?」
 トレインは調合器具が机の上にあったため、調合中だとは分かるのだが・・・いつもと違う。

 しかし本人はさらっと「え?調合だよ?」なんて分かりきったことをいう。
「いつもとは違うんだな。本とか出してるしよ」
「あぁ、コレ?コレはレシピ集」
「レシピ?」
 トレインの頭の中に浮かんだレシピは、スヴェンがいつも持っていて、見ながら料理をしているアレ。
「スヴェンに見せたほうがうまいもん作れるぞ?」
「・・・・・・料理レシピじゃないってば・・・」
 はぁ〜、と呆れるようなため息をつくと、は一番上の本を手に取った。
 少し太い本はトレインの手に渡り、トレインは中を開いてみる。


 物質転換剤の作り方
 水晶の作り方
 よく分かる!採取ポイント

 全て、錬金術師であるが好きそうな題名ばかりだ。



「調合レシピよ」
 なるほど、とトレインは本をパタンと閉じた。
「で、何で今更そんな研究をしてるんだ?」

 は、少し眼を伏せて言った。
「少しでも成長するためには、飛び立つ方法を知ることでしょ?飛び立つ方法というのがこのレシピなの」
 本はトレインの手から、再度の手に渡った。
 彼女はぺらぺらと捲りながら、更に付け加える。
「でも、もう全レシピの暗記が出来たから、今は応用術を考えてるところ」

 机の上には、調合器具のほかにたくさんの紙が散らばっている。



「・・・お前ってそんなに勉強熱心だったか?」
「えぇ、一応こんなでも錬金術師ですから」

 術師は実践、学力ともに秀才じゃないとなれない。
 まさに、その通りだ。
「学力はあるのよ?かなり」
 ふふっと微笑み、本を閉じる。
 そしてそれをまた元の場所に戻した。

 トレインはふーんと聞き流したが、ふと思いついたように呟く。

「じゃあ、俺ら相性抜群だな」
「え?」
「だってよ、学力に自信があると体力に自信がある俺。ほら、お互い無いものを補ってるだろ?」
「あぁ〜・・・確かにそうよね」
 ポンと手を叩くと、明るい顔になった。
「じゃあトレイン、手伝ってくれるの?」
「あぁ?何でそうなる」
「だって、お互いないものを持ってるんでしょ?私がレシピを増やすから、後片付けよろしくね」
 ニコッと微笑むと、また本を広げだして自分の世界に入り始めた。


「・・・・・・しかたねぇなぁ・・・」

 そう言ってはいるものの、トレインは全く嫌そうな顔はしていなかった。


 レシピを仕上げるの隣で、面倒そうに本を積み重ねていくトレイン。





 成長のために、二人の恋は一時中断。