『アンジェリカ、あなたには知っておいて欲しくないことがあります』
『え?突然なんですか?セフィリアさん』
『愛という感情を知ってますか?』





「愛」ってなぁに?






「・・・懐かしい夢を見ちゃったなぁ・・・・・・ふぁあ」
 朝日が眩しいベッドの中で、はふと呟いた。
 さらりと伸びた髪は、いつもほど乱れていないで落ち着いている。
 髪の毛の間から、陣を書いたピアスが覗く。
「・・・随分昔のことだったっけ・・・」


 あれは確かクロノスに入って大分経ったときだった。
 懐いていたセフィリアの部屋に入ったが言われた言葉だ。


『愛??何ですかソレ』
 当時9歳だったは怪訝そうに聞き返した。
 5歳まで祖母と暮らしていて、祖母か死んでからクロノスに引き取られたのだから、知らないのも無理はない。
 恋愛をしている暇など、彼女にはない。

『・・・知らないならいいわ』
『えー何なんですか!?教えてくださいよぅ!』


 セフィリアは哀しそうな顔をして、に言った。
『あなたは知らない方がいいのです・・・未来のためにも』




「・・・・・・そういえば、結局なんだったんだろ?」
 は窓を見ながら考えた。

 彼女は『愛』が何かも分からないまま、クロノスを抜けて、一人で生きてきたのだ。

「・・・あ、イヴなら知ってるかなぁ?」
 そう呟いたとき、もうは部屋のドアを開けていた。




「おはよぉ〜」
「おはよう、
「よぉ、今日は早いな」

 リビングに行くと、イヴとスヴェンがもう起床していた。
 スヴェンは朝食を作り終えたところらしく、の席に置く。
 イヴはこれからその朝食を食べるところだ。

「まぁね」
 は自分の席に座って、何かに気付いたように眼を見開いた。
「あれ?スヴェンのご飯は?」
 トレインの席にも置いてある朝食が、スヴェンの席にだけ存在していない。
 するとスヴェンは疲れた目でを見て、
「あぁ・・・徹夜でウェポンケースを改造したんだ」
「へぇー、で?」
「これから俺は・・・・・・寝る」
 有無は言わさないという眼力で質問を押しのけたスヴェンはふらつきながら階段を登っていった。

「おやすみー」
 は、そう言っておいしそうな朝食を食べようとナイフとフォークを掴んだ。
 イヴはトランス練習のため、自分の手をナイフとフォークにして食べている。
 ちなみに言えば、とイヴは向かい合わせになって食べている。
 スヴェンの隣にイヴが座って、その前にが座り、その隣がトレインの席だ。

「・・・・・・ねぇ、イヴ」
「なに?」
 目玉焼きを口に入れながら、イヴはの方を見た。
 もまた、目玉焼きを口に入れようとしている。

「あのね、聞きたいんだけど、『愛』ってなんだか知ってる?」
「・・・・・・・・・は?」

 イヴはフォークに刺していたウィンナーを落とした。

、知らないの?」
「え?イヴは知ってるの?教えて!!」


 呆れたと言いたげな目を向けるイヴに、はきょとんとした目を向けた。
 お互いの目がぶつかったそのとき。


「よー姫っち・・・って、?お前今日早いな」
 トレインがリビングへ降りていつもの席に着いた。
「うん。何でだろうね」
 はおはようと言ったあとにそう微笑んだ。

「ん?姫っち?どうした??」
 ただ一人、イヴはありえないという表情をまだに向けていた。

「・・・トレイン、『愛』ってなんだか知ってる?」
「愛だって?知ってるに決まってるだろ?」
 イヴの言葉に怪訝そうに首を捻りながら答えた。

「えっ!?知ってるの!?じゃあ教えて〜!!」
「・・・・・・・・・あ?」

 美味しそうな目玉焼きに、パンとバター、ミルクがあるがトレインはそれを見ず、ただを見ていた。


「・・・大丈夫か?今日の変だぞ?」
「同感。でも、本当に知らなさそうだよ?」
 きょとんとしているの前で、堂々とトレインとイヴは秘密話をした。
「そもそも、なんで今更そんなことを聞くんだ?」
 怪訝そうな顔をした二人の目の中に、の顔が映った。


「ん〜・・・夢でね、懐かしいのを見たのよ」
 本人はけろっとした様子で話し始めた。
「で、それは私が9歳のころの夢だったんだけど、そういえば、そんなことがあったなぁって思って」
「どんな夢なの?」
「それがね、セフィリアさんに呼ばれたんだけど」
「セフィリアぁ?」
「・・・誰?」
「時の番人の隊長だよ。ナンバー1なの」
「で、何の用だったんだ?」
「それが・・・」



『アンジェリカ、あなたには知っておいて欲しくないことがあります。』




 トレインが首を捻った。
「なんだったんだ?」



『愛という感情を知ってますか?』




 今度はイヴが首を捻った。
「なんで知っておいて欲しくなかったんだろ?」



『あなたは知らない方がいいのです。・・・未来のためにも』




「・・・ってわけよ。で、私はその答えを知ることなくクロノスを抜けちゃったってこと」
 だから、教えて?とは朝食の手を止めて両手を合わせた。
「でもよ、なんて教えればいいんだ?」
「さぁ?」
 二人は悩み始めてしまった。
 そりゃそうだろう。
『愛とは○○だ』なんて楽に教えてやれるものじゃない。

「・・・愛って言うのは、好きな人が出来たときに使われる言葉なんだよ」
 これも本を読んで覚えたことだろう。
 しかし、思いっきり的を当てた答えだ。

「・・・・・・ん〜?」
 分からないという様子で首を捻っただが、ハッと気付いてポンと両手を叩いた。
「じゃあ、私はトレインに『恋』してるんだ!!」
 それを聞いたトレインは顔を真っ赤にしてたじろいだ。
「なっ!!!」
「おぉ〜」
 イヴは感心している。




 しかし、トレインが脱力してイヴが呆れる言葉が聞こえた。

「イヴにもスヴェンにもリンスやキョウコちゃんにも『恋』してるんだ!!」




「・・・・・・はぁ?」
「それ、かなり意味が違うよ」
「え?そうなの?」
 本人は好きの意味が違うことに気付いていないのか頭を抱えて考えだした。
 トレインとイヴは、そんなを見て一斉にため息をついた。

「あのな、。愛って言うのは・・・そういうのとは違うんだ」
「そうそう、私たちよりも、すこし違う・・・って言うのが、愛」
 本人達なりに必死で教えているつもりが、余計をこんがらがらせる。

「もーわかんない!!」
 そういうと、イライラしながら黙々と朝食を食べ始めた。

「何で分からないんだ・・・」
 彼女に聞こえないように、脱力感たっぷりの声を上げるトレインにイヴが
「トレイン、にまず愛の意味を教えなきゃ駄目みたいだね」
「姫っち・・・言うな・・・」
 嫌味たっぷりの気持ちを込めて呟いた。


 トレインは、を気に入っている。
 ソレが愛だということも、本人は知っている。
 しかし、が知らないと、伝えたくても伝わらない。
 彼女に愛の意味を教えない限り、自分は告白が出来ない。

「ごちそーさまっ!」
 は食べ終わるなり二階に上がってしまった。
 どうやら、自分だけ分からない愛の意味に四苦八苦しているようで、それが原因でイライラしている。

 何度目だろう・・・トレインはため息をして、ミルクだけ持って二階に上がっていった。

 残されたイヴはトレインの後ろ姿を見て
「おぉー、告白するのかな?」
 ちょっと期待して、あり得ないと思ったのか再びいつものように食事を再開した。





「はぁ〜わかんない・・・」
 頭を抱えて考えると、段々痛くなってくる。
 コレは馬鹿だという、脳からの伝言と受け取れなくもないだろう。
「でも、私が言う『好き』と、みんなが言う『好き』の違いがわかんない!!」
 ベッドに座り込んで考えたが、やがて立ち上がって

「・・・発音?いや、違うか・・・」
 また座り込んだ。



、入るぞ」
 ノックの音が聞こえて遠慮を知らないトレインが入ってきた。
「トレイン・・・愛の意味教えてよぉ〜!!!」
 観念したとばかりに、半分涙目になったが降参した。
 が、別に勝負をしたわけではない。

 しかし、真剣なトレインがいて・・・いつもの無邪気なトレインはそこにいなかった。
「俺さ、が好きだ」
「・・・へ?」
 普通の女の子なら、頬を赤らめるのだが、はきょとんとしただけだ。

「姫っちは普通の仲間だとしか思ってねぇんだけど、は一人の女だと思ってるんだ。
 それが、『好意』と『愛』の違い」


 多分、その説明でも分からないはず・・・・・・だが?
 はポンっと手を叩き、理解したように微笑んだ。
 そして

「私もトレインが好きっ!!」

 無邪気に微笑むのは、いつもの
 でも、トレインにとってとても嬉しい言葉をくれた。
「・・・本当か?」
「うん!!」
 トレインも嬉しくなったのか、そのままの唇に自分の唇を重ねた。

「・・・・・・・・・・・・んっ・・・・・・」

 いつもとは違う、の甘い声が漏れる。
 そして、離してやると少し顔が火照ったがそこにいた。



 はにっこり笑って・・・





「イヴとスヴェンたちにもしてこなきゃ!みんなも好きだもん!」



「・・・・・・・・・・・・
は?





 信じられなかったのか、ボーっとしていると、が出て行く音が聞こえた。

 自分がしたことがバレる!!


!!ちょっと待てッ!!!!」





 そして、中盤に戻る・・・なんちゃって?