「イヴ、何読んでるの?」
「。『偉大なる錬金術師の練成陣の全て』だって」
「また難しそうなものを・・・って、陣の全て?」
「うん。でも、よく分からないの。」
「いろんな人の使う陣が書かれているの?見せてーっ!」
それはは20分くらい前の出来事だろう。
暇を潰すためにリビングに来たは、ソファで本を読んでいるイヴを見つけた。
たまたまイヴが読んでいたのは、錬金術を使う術師たちが使っていた陣をまとめた図鑑だ。
「何処でこんな面白そうな本を買ってきたの?」
「ううん。アジトの中の書斎にあったから、見てたんだ。錬金術に関係あるし。・・・でも」
イヴは本を広げて見せてくれた。
「・・・・・・そりゃ、イヴが分からないはずよね。」
が見たのは、人物名と陣、そして全身が書かれていて何処にその陣を彫っていたのかが鮮明に書かれている。
しかし、字は少ない。・・・かなり。
「でも、面白そうじゃない」
一般人にとってはかなりどうでもいい本でも、術師にとってかなり面白そうな本。
の目が光るのも無理はないだろう。
ソファに座ったは、イヴと本を見て暇を持て余すことにした。
「へぇ〜、掌に陣を彫ってる人もいたんだ」
「彫ってたらどうなるの?」
感心そうに見ているの隣で、イヴは首を捻らせる。
はうーんと唸り、掌を見て言った。
「掌に彫ってると、手をかざすだけで使えるんじゃない?
私の場合はピアスに彫ってるの。いろんな人がそれぞれどこかに陣を持っていたのよね」
「へぇー・・・」
錬金術師が近くに居るせいか、イヴは最近勉強が楽しくて仕方ないらしい。
よくにいろんなことを訊いてきて、そのたび丁寧に教えてくれる。
もっとも、頭がよくないと錬金術師なんて出来やしないのだから。
「この人は目の中に入れてたんだって」
「うわ、どうやったんだか」
「・・・・・・ねぇ、この女の人は何処に彫ってたの?」
え?と怪訝そうにイヴが指を指した場所を覗き見る。
陣は書いてあるが、何処に彫っていたのか書いていない。
「何処に彫ってたんだろ・・・えっ?」
「どうしたの?」
イヴが見たは、真剣なまなざしで、怪訝がっているようにも、見えた。
「両手を叩くだけで練成可能・・・・・・!?」
「両手??」
はその表情のまま両手を叩いてみた。
パンッという乾いた音が響く。
「・・・これだけで錬金術が使える人も居るの?」
「うーん・・・実際見たことないから、なんともいえないけど・・・この手の形が陣を表してるのかな?」
はイヴにも見えるようにかがんだ。手は円を作っていて、いびつだが陣に見えなくもない。
「すごーい」
「本当に、凄いね」
イヴは感心していたけど、の表情は優れていない。
私の場合、ピアスを取られたら使えないのに、この人は両手だからどうなっても使えるのね。
「うーん・・・・・・私も体の何処かに彫ろうかな」
「何をだ?」
「なにをって陣を・・・ん?」
イヴはジッと後ろを向いている。
も其れに習って後ろを向いた。
「よっ」
「トレイン・・・」
「あれ?屋根の上で寝てたんじゃないの?」
イヴは少し嫌そうな顔をして呟いた。との時間を取られたくないのだろう。
一方はと言うと、不思議がって言った。実際屋根の上で寝ているところを見ていたのだ。
「目が覚めたんだよ」
「・・・もっと寝てたらいいのに」
「姫っち、あからさまに不満を言うな、不満を」
で、とトレインはとイヴが持っている本を覗いた。
「何を彫るんだ?」
は一瞬眉をひそめたが、すぐに其れは解かれた。
「あぁ、陣を体に彫っておこうかなって思って」
「陣?ってあの錬金術ってヤツを使うときにいるやつか?」
「そうそう」
はいつの間にかトレインから目を離し、本に向いていた。
そんな様子に彼はムッとして、イヴはというと「ざまあみろ」とでも言いたそうに舌を出した。
「、人と話すときは目を見て話したほうがいいと思うぞ?」
「今、忙しいんだよね」
ついさっきまで自分も暇だって言っていたくせに、一旦することを決めると、のめり込んでしまう。
其れが彼女の良いところだが、今のトレインにとって面白くない長所。
猫は構ってもらえないと死ぬのか。
否、死なない・・・が、ふてることは多々ある。
「ぅあっ!!」
とイヴの手の中にあった本は、今やトレインの手の中にあった。
ひょいっと奪われて、真剣に読んでいたはどれほど迷惑か・・・勿論、彼は考えた上での行動だが。
「トレイン!返して!!」
「やだ」
ムッとしたままのトレインは本を閉じて戸棚の上に置いた。
トレインには届いても、ちっちゃいには届かなくて、丁度いい場所だ。
「・・・・・・私に喧嘩売る気?」
「が構わないのが悪い」
わなわなと震えるに、出来ないことはない。
「子供か、あんたはっっ!!」
そういって床に両手を付けた。
途端、ピアスが紅く光る。
「!?」
「ここで錬金術を使う気かよ〜!!」
あまりに咄嗟過ぎてトレインとイヴまでもが驚きの声を上げたときだ。
パシンッと乾いた音とともにはとレインと同じくらいの背の高さになっていた。
・・・・・・詳しく言えば、造った梯子に登っているだけだが。
「返せーっ!」
「返せって言われて返すと思ってんのかよ!」
トレインはバッと本をとり、逃走を図った。
「あっ!誘拐よ!!」
はそのトレインを、まるで逃走犯を捕まえるが如く掃除人が使う手錠を出して追っていった。
「・・・・・・なんていうんだっけ、これ」
やっていられなかったのか、イヴはソファにすわって別の本を読んでいた。
そのソファの周りも二人は追いかけっこの舞台になっている。
むしろ舞台はアジト中だったりして。
ぺラッとページを捲ったイヴは、ふと思い出したように前を向いた。
二人の追いかけっこが目に入る。
「あっ、そうそう。『痴話げんか』って言うんだっけ」
イヴの言葉は、二人の耳に入っていなかった―――・・・
「・・・・・・で、なんなんだ?これは」
銃弾調達に行っていたスヴェンは呆れ返っていた。
イヴが座っているソファ以外、アジト中が凄まじい光景になっていたのだ。
階段がぐにゃりと曲がっていたり、床からはトゲが突き出ていたり。
全部トレインを捕まえるため、が錬金術で造っていったものだ。
その後二人はこっぴどく叱られ、本はスヴェンの手からに渡ったものの、今後二度とその本を読まなかったとか・・・。