「・・・・・・あ゛」
与えられた一室で、=といった少女は机に向かっていた。
年齢は20歳ほどで、黒のブラウスに白のロングスカートを履いている。
赤茶色の髪は腰の上くらいで微かに揺れた。
精悍で可愛らしい少女に似合わず、両手にはフラスコが握られている。
少女の顔は戸惑いの表情を作っていた。
小さな声で、呟いた。
「材料が足りない・・・」
階段は揺れていた。
大きな音を立てて、一気にが階段を駆け下りたからだ。
「ちょっと出かけてくる!!」
「あ゛っ、!?」
大きな声で威勢良く発せられ、アイテムを造っていたスヴェンと本を読んでいたイヴは唖然とした。
「どうしたの、そんなに急いで」
イヴの声にはピタッと止まって言った。
「材料が足りないの!」
「材料?何の?」
「調合!!」
の言葉に、二人は納得した。
彼女は錬金術師で、暇なときは調合をして腕に磨きをかけるため、勤しんでいた。
その途中に材料がないと気付いたのだから、慌てるのも当たり前ということだ。
しかし、もう一度ピタッと止まって彼女は辺りを見回した。
・・・・・・一人、足りない。
「あれ?トレインは??」
「アイツは今外に行ってるぜ。大方何処かで昼寝でもしてるんじゃねェの?」
トレインは、と同じ境遇に立ったことがある唯一の人物だ。
二人とも「クロノス」に入っていて、抜けたという過去を持っている。
時の番人の「0」と「13」のナンバーを持っている。
ちょっと、に一目置かれているやつだ。
「へぇー・・・でも、そろそろ帰ってこなきゃ日が暮れちゃうよ。見つけたら連れて帰るね」
「おー頼む」
スヴェンとイヴに見送られ、は急いで出て行った。
「・・・ねぇスヴェン、が加わってから賑やかになったね」
「賑やかにも程があるぞ、イヴ」
二人はしばらくドアを見つめていたが、やがてそれぞれのすることをし始めた。
「えっとぉ・・・松の花が欲しいんだけどなぁ・・・」
一方は松の木ばかりを見ていた。
周りに関係なく上ばかり見ているため、足取りがめちゃくちゃ危なっかしい。
「ん〜ないなぁ・・・まぁ、こんな季節にあるほうが可笑しいんだけどね」
は上を見上げつつ、苦笑した。
しかし、ここであきらめれば調合の続きが出来ない。
少しでも早く帰って続きがしたいは、死ぬ気で探した。
もっとも、なぜそこまでこだわるかというと、今新しいアイテムを作っている真っ最中なのだ。
それに松の花びらと花粉がどうしても必要らしい。
「松の花よ、出てこい〜!!」
祈って出てくるものじゃない。
空が赤く染まり、これから暗く染まっていこうと言っている。
しかしはひたすら上だけを見ている。
すると、奇跡が起きたのだろうか。
「あっ!!!松の花だぁっ!!!!!」
の目の中に、綺麗な色の松の花が咲いていた。
辺りはもう暗くなっている。
しかし、の周りだけ光で満ちていた・・・が。
彼女まで暗くなることに。
「・・・・・・どうやって取ろう」
ドラ○もんが居れば、タケ○プターで取れるのに・・・。
なんて、変なことを思っても取れないって!!
は手を伸ばしてみた。
しかし、遥か彼方に松の花がある。
「早く帰らないと、スヴェンとイヴが心配しちゃうのに・・・あ゛っ!!!」
『アイツは今外に行ってるぜ。大方何処かで昼寝でもしてるんじゃねェの?』
『見つけたら連れて帰るね』
そういえば、そんな会話を交わしたっけ・・・・・・
しかし彼女の頭の中には松の花だけが存在していた。
「と、トレイン探すの忘れてたっ!!!」
無常にも、声だけが響いた――・・・
かに見えたが。
「んぁ?呼んだか?」
問題の松の木の隣の木から、ヤツの声が聞こえた。
ヤツとは勿論・・・トレインだ。
「トレイン!?木の上で何やってるの?」
びっくりして思わず松の花を忘れた。
彼女は隣の木の上を見つめる。
ひょこっと馴染んだ顔が出てきた。
いつもの黒猫さんだ。
「寝てたに決まってんじゃん。こそ何やってんの?」
ずっと寝ててスッキリしたのか、満面の笑顔をして言った。
「えっと・・・なんだっけ。あー・・・そうだ!!松の花を探してたんだ!」
「松の花ぁ?それってアレか?」
トレインが指差した先には、さっきが見つけた松の花が。
はがっかりしながら頷いた。
「うん。でも、取れないんだよね。それがないと調合の続きが出来ないのに・・・」
「調合の続き?ってことは途中で止めて探してたのか?」
「・・・そうなんですよ、親分・・・」
「誰だそれ」
あははと笑うと、トレインは立ち上がった。
「よっ」
そして、とてつもない跳躍力で隣の木に移った。
「トレインっ!?」
さすがのも、これには吃驚したようだ。
辺りはもう暗くなっている。
やっと、は松の花を手に入れた。(手に入れたのはトレインだが)
「、手に入れたぞー」
「よくやった!トレイン!!!」
木の上で仁王立ちをし、ピースをするトレインを、は微笑ましく思った。
スタッと音を立てて降り、トレインの手からの手に松の花が渡った。
「ありがとー!」
これで調合の続きが出来ると喜んだ・・・はずなんだけど?
「ん。じゃあ帰るとすっか!スヴェンと姫っちが心配するからな」
帰りたくない・・・という思いも浮上してくる。
「?」
いつまでたっても動かない彼女に、トレインは振り返った。
はきょとんとしてる。
トレインもきょとんとしてる。
「・・・・・・なんでもない!帰ろう!!」
早足で彼の元までいったは、そのままトレインを追い越した。
このどうしようもないモヤモヤが何なのか、は後に分かるのだろうか。
しかし、一つだけ確かなことがある。
二人は後に、スヴェンから思いっきり怒られるのだった。