「スヴェン、姫っち。アジトに帰ろうぜ」
「あ?あぁ、いいけどよ。もう用事は終わったのか?トレイン」
「・・・ねぇその女の人、さっき銀行強盗捕まえた・・・」
「ん?あぁ、だ。俺と同じ『元』時の番人」
トレインはニッと微笑んだ。
「ハーディスが直るぞ!」
アジトに着くと、は早速取り掛かろうとテーブルに機材を並べた。
直す間にトレインがの説明を二人にするのだ。
「さ、トレイン。ハーディスを貸して。久々で腕が鳴るわ〜!!」
はしゃぐ姿は15歳くらいの少女に見える。
・・・が、彼女は20歳なのだ。
軽くハーディスを分解し、これから修理開始だ。
「で、あの子は一体何なんだ?」
「あぁ、何処から話そうか?」
「・・・もういい。私が話す」
よく考えたら、トレインとはさっき初めて会ったんだし、のことは何も知らないではないか。
「まず、私の名前は=。クロノス時代はアンジェリカ=だったんだけど、過去を断ち切るために名前を変えたの。」
いわば、堕天使が天使に転生したようなものね、と言いながら手先に集中させる。
まずは様々なところを点検する。
「で、今の職業は掃除屋。・・・情報はこれくらいかな?さて、質問は?」
スヴェンが名乗り出た。
「なんでクロノスを辞めたんだ?」
途端、は苦笑い気味な表情に変わった。
「うーん・・・ちょっとあってね。よし!トレイン、結構ガタが来てるみたいだから直してあげる」
「おー助かるぜ」
「今回は特別無料でご奉仕いたしますわ」
いつの間にか分解されていたハーディスは組み立てられていた。
くすくす笑うと彼女は壊れている部分に手を当てた。
徐々にの耳元が赤く光る。
赤い光と、バチィッという音が響いた。
光がやんだとき、の満足そうな顔が見えた。
イヴを始め、スヴェン、あのトレインでさえもきょとんとしてる。
「・・・あの、さん?今のは・・・?」
トレインだ。
こんなに動転しているトレインを見るのは初めてだろうが、今スヴェンとイヴにそんな余裕はない。
二人もが発生させた謎の光に夢中のようだ。
「・・・あ、言ってなかった?」
きょとんとした表情では言った。
「私ね、錬金術師なの」
「「「錬金術師ぃ!?」」」
「そう。一つの物質を別の物質に変えることが出来る人、それが私」
戸惑っている三人は、表情で分かる。
はそう思ったのか、一つずつ言葉を選んで説明をしていった。
錬金術師とは一つのものを別の一つのものに変えられる人物のこと。
彼女は少し変わっていて、ピアスに刻まれている陣で分解や再構成をするらしい。
手を当てるだけで、思うものが造られるらしい。
は独自の錬金法を使って調合をしていること。
(5歳で全ての知識を叩き込み、それから独自で作り出したらしい。)
「ん〜・・・よくわかんねぇけど、いろんなものが造れるわけだ?」
「そうだねぇ、造り方さえ知ってれば」
思えば、これがクロノスに入るきっかけだったのだが・・・これは黙っておくことにした。
「って凄いんだね」
イヴは初めてのことを聞いたことに嬉しさを覚えている。
「そうでもないよ。頭さえ良かったら誰でも出来るし」
「じゃあトレインのハーディスもその『錬金術』とやらで造ったのか?」
「そだよ。私の銃も。つか、番人の武器は全部私が造ったんだよ」
そう、全ての兵器をが造った。
今もその兵器で人を殺しているかと思うと、胸やけがする。
「ねぇトレイン、ハーディスは使いやすい?」
「あ?何だよいきなり」
急に聞かれて少し驚いたトレインも、素直に頷いた。
「あぁ。一番しっくり馴染むな」
「・・・そう」
よかった、と喜ぶべきなのだろうか。
それとも哀しむべきなのだろうか。・・・・・・今のにはそんなこと分からなかった。
「・・・?」
は、少し哀しそうな表情を見せたが、すぐに引っ込める。。
「・・・ううん。なんでもないわ。出来たよー!」
ポンッとハーディスを投げて、トレインがそれに食いつく。
「うぉっ!もっと丁寧に扱えよ!」
ハーディスをホルスターにしまったトレインは、一息置いて再びに問いかけた。
「なぁ。俺達と掃除屋の仕事をしないか?」
いいだろ?とスヴェンとイヴの方を見たトレインに二人は首を縦に振った。
「あぁ、むしろ戦力になるしな」
「錬金術のこと、教えて欲しいし」
「な、?」
「・・・・・・・・・でも、私は組まないことにしてるんだ」
「は?」
トレインの目が「何でだよ」と言っている。
は素直に伝えた。
「だってみんなそう言って私を仲間にさせようとしたわ。中には強制的だった・・・まぁ、逆に伸してやったけど」
イヴが首をかしげて訊いてきた。
「どうしてを仲間にしたがるの?」
「それは、異例のナンバー『0』だからよ」
そう、が言うナンバー0には、もうひとつ理由があった。
錬金術師だからという理由だけではなく―― ・・・
「その、もう一つの理由というのは何だ?」
スヴェンが聞いてくる。
言いたくなさげだけど、はゆっくりと口を開く。
「・・・・・・私ね、生まれつき治癒能力があるの」
「治癒能力・・・・・・ってなんだ?食えるのか?」
トレインは何か変なことにとっているが、そこは置いておこう。
「治癒能力って・・・傷を治せる?」
は頷いて、その場にあったナイフを持った。。
そのナイフをを腕に当てて、スッと引くと血が徐々に出だした。
「うわあっ、何してるんだよ!」
「大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。よく見ててね」
慌てる3人をよそに、は片手を血が溢れる場所にかざした。
すると暖かい光が傷を包み、血は止まった。
そして傷も見る見るうちに治っていった。
「うっわぁ・・・・・・」
「すげぇ・・・」
「初めてみた・・・・・・」
三人はそれぞれ感嘆の声を上げている。
「この力が欲しいんでしょ?みんなも」
「なに言ってんだ?」
あ・・・あれ?
予想に反して、トレインとスヴェンとイヴの反応は薄かった。
いつもなら当てるとビクッと肩を震わせるんだけどなぁ・・・
は、そんなことを考えていると、呆れた声でスヴェンが言った。
「、俺らはそんなものに興味はない。純粋にお前を必要としているだけだぞ」
「へ・・・?」
トレインも口を開く。
「そのなんとか能力を知る前に、もう誘っていただろうが」
「あれ、そういえばそうだっけ・・・?」
イヴまでもが開いた。
「ってちょっとずれてるね。」
「あはは・・・・・・ごめんなさい。」
いつも出会う掃除人とは違い、凄く安心する。
ホッとしていて、私はこの一員になってもいいのかと迷ってしまう。
神様、私は・・・もう一度、人を信じてもいいのですか?
堕天使から転生した今でも、同じ道を歩んでもいいのですか?
の答えに返事はなかった。
でも、返事が聞こえたような気がした。
「・・・・・・じゃあ、お世話になります」
控えめなの言葉。そして照れたように下げた頭。
トレインは、それらを笑顔で返した。
「おう、頑張ろうぜ!!!」
これから、天使の新たな旅が始まる―――・・・