治癒の堕天使


「どぉも〜!掃除屋でぃっす!」
 栽培中の花が幾つも目立つ。
「ルーク=カズラー、チェックメイトよ!」
 中心で凄い数の薬を数えている男の人に、少女の声は響き渡った。








 大きな通りを一人の少女が歩いていた。
 少女と通り過ぎるたび、様々な男が振り返るほど、少女は可愛らしかった。
「28、29、30万っと。今回はしょぼい褒賞だったわ」
 数え終わったお金をしまい、彼女の足は銀行に向いていた。

 きっと街一番の大きい銀行だろう。
 しかし少女は怯むことなく入っていく。



 しばらくして、少女は通帳を手に椅子から立ち上がった。

「うん、結構溜まってるじゃない!」
 とても嬉しそうなのか、笑顔でそう言った。
 そのとき、入り口から銃声が聞こえた。
 パアァン!
 少女・・・いや、銀行内にいる全員が銃声の方を向いた。



「ありったけの金を出しなっ!!!」

 男は一人の銀行員に銃を突きつけ、そう叫んだ。


(銀行強盗?・・・ん?あの顔は・・・)


 少女は記憶をたどっていく。
 見覚えが、ある。



(確か、褒賞金が1500万イェンほどあったような・・・そうよ!マグジェット=アースラだっ!!)

 銀行強盗の男・・・マグジェットは数々銀行強盗をして、その度に逃げ切っているヤツだ。
 足取りがつかめなくて警察も捕まえるのに苦労しているらしい。
 その数、今回の事件を合わせて27回といったところだろうか。

(・・・チャーンス!)
 少女の顔は不敵に微笑んだ。




「よし、これで全部だな!」
 一方マグジェットは銀行員からお金が入った鞄を受け取ったところだ。

「人質は女子供がいいな・・・」

(選ばれろ、選ばれろ〜!!)
 逃げるための人質に選ばれたいと願う少女は、多分彼女以外に存在しないだろう。


「よし、お前!!そこの茶髪のお前だ!!さっさと来い!!!」
 マグジェットが指差した先には、少女が。

(ぃやったぁ!!)
 内心喜んでいることを読まれないように、必死に怖がっている演技を咄嗟に少女は取った。
「はっ、はい・・・!!」
「よし、来い」

 グイッと髪を引っ張って連れ出す。



(痛いって!!抜けるじゃない!!)
 怯えた表情をしていても、内心ではどうやって捕まえてやろうかを考える辺り、
 少女は一人前の掃除人だということが分かる。



 銀行強盗が出たという噂は一斉に広まっていて、少女とマグジェットが出てきたときには
 かなりの人ごみだった。
「どけろ!撃たれてぇのかっ!!!」
 マグジェットの逃げ方を知りたかった少女だが、これ以上は少し危険と判断したのか
 真剣な表情に変わった。


「ねぇ、痛いんだけど。髪の毛を引っ張るのは止めてくれない?」
 さっきとは打って変わった態度の変化に怪訝に思ったのか、マグジェットは少女を見る。
「るせぇ!てめぇは人質なんだよ!分かってんのかっ!?」
「分かってないのはあなたの方よ」

 そっと少女は手を後ろに回した。
 そして、隠してあったリボルバーから紅い装飾銃を抜いた。

「あなたが今人質にしてるのはねー、掃除人でぃっす!」
「・・・・な、なにっ!?掃除人だとっ!?」
 やっと分かったのかマグジェットはすぐさま少女に銃を向けた。
 しかし撃つまではいかなかった。

「残念でした」
 少女が素手で銃を持ち、バチッという静電気に似たような音を出した。
 途端に、バラバラと銃は分解してマグジェットの手から落ちた。

 一瞬のことでマグジェットは良く分かってなかったが、すぐに逃げようと走り出した。
 しかし、先手を打っていたのは少女だった。


「お金を易々と見逃すわけないでしょ?」
 左手には紅い装飾銃が握られ、ドンッと撃った。

「っぎゃああっ!!」
 その銃弾はマグジェットの右足を貫き、男は倒れこんだのだ。




「マグジェット=アースラ、チェックメイトです」

 手錠をかけ、少女はマグジェットの右足に両手をかざした。
 すると、血は止まって見る見るうちに傷が治ったのだ。

「・・・お前、何者だ?」
 治っていく傷を見ながら、男はそう呻いた。



。ただの掃除屋よ」
 少女・・・は、微笑んだ。


「・・・まさか、『治癒の堕天使』・・・」
 マグジェットの視線の先 ―― 彼はの胸元にある「0」という数字を見た。
「以前はそう呼ばれてたわね」


 それだけ言うとは立ち上がると、男を連れて警察に向かっていった。







「・・・なぁ、トレイン。あの子が持っていた銃ってお前のハーディスによく似てるな」
「本当、色違いじゃない?」
「・・・・・・あぁ、そりゃそうだ」


 彼女の姿を見ていた黒髪に金眼の男は、唖然としていた。










「いっや〜今日は絶好調!まさかあのマグジェットに会うとはね〜」
 が警察署を出るのは本日二度目だ。
 しかし、今回は銀行に行かなくても振り込んでくれるらしく、気分が絶好なのも分かる。


「ところで、あなたは私に何の用?」
 門のところに居るのはさっきの黒髪の男。
 猫みたいに鈴の首輪をつけている。

「なぁ、あんたもしかしてアンジェリカ=?」
「うん。・・・そのファーストネームは捨てたけどね。今は『』だけど」

 の表情は警戒の色に染まった。
 いつも彼女の『治癒能力』欲しさに仲間に誘う輩がいる。
 こんな所で会っても可笑しくない。


 しかし、男はパァッと笑顔を輝かせると、こう叫んだ。





「こりゃ、ラッキーだ!!なぁ、ちょっとハーディスをみてくれねぇか!?」

「・・・・・・・・・・・・はぁ?」





 は拍子抜けをしたように聞き返した。
 そして、きょとんとした様子で

「・・・なんで?」
 これだけ呟いた。

 男は顔の前で手を合わせて、頼み込む姿勢を保っている。
 しかし、この男の言葉での表情は強張った。


「あんた異例のナンバー0だろ!?時の番人の!」


 ごく一部の人しか知らない、この情報を知っているのは二つのうち、どちらかだ。
 一つはの能力が欲しいやつか、
 もう一つは、時の番人か。


「・・・・・・戻らないわよ」

 連れ戻しに来たのだろうか。
 そう思ったが意外にも男は「はぁ?」と言って「ちげーよ!俺も元番人なんだよ!」と叫んだ。



 ・・・なんだ、同じ仲間かぁ・・・。
 ここでやっと、の緊張はほぐれた。



「俺はトレイン・ハートネット。元『13』だ」
「・・・あぁ、確か私と似たような銃を作った。」


 確か、伝説とも言われている『ブラックキャット』って言って恐れられてたはず。
「へぇ〜あなたがあの黒猫さん?」
「あぁ、今は野良猫だけどな。あんたこそ、噂には聞いてたけどこんなに若いとは知らなかった」
「あはは〜よく言われます」


 なんか、気が合うなぁ・・・


「で、ハーディスの調子が悪いの?」
「あぁ、そうだ」
 トレインはホルスターから慣れたようにハーディスを出した。
 に渡すと彼女は真剣な面持ちになって見回した。
「・・・あちゃぁー焦点が定まらないねぇ。これは一度バラさなきゃ駄目だよ」
「うそっ!マジでっ!?」

 ショックを受けたように落ち込むトレインだったが、すぐパッと顔を上げて、こう言った。
ってこの町に住んでるのか?」
「ううん。放浪してる。掃除人だからね」


「じゃあ俺らがいるアジトに来ないか?」

「・・・・・・アジトぉ・・・?」


 アジトってなんか悪い人が集まるところみたい。
 そう思ってちょっとあとずさった。
 トレインはそんなの心情に気付いたのか、慌てて
「あっ、悪い奴らの溜まり場じゃねぇぞ!俺と相棒のスヴェンと姫っち・・・あぁ、イヴって言うんだ。そいつらが居るんだけど」

「・・・ね、ねぇ・・・トレインって何してるの?今。」

(姫っちって言うくらいなら女の子よね)
 結構危ない事は出来ないだろうと思ったが、トレインは黒猫だったし・・・と、気になって仕方がないらしい。
 まだ20歳のは、なんだって知りたがる子供なのだ。


「ん?掃除屋だ」
「掃除屋ぁっ!?一緒じゃない!じゃあ敵ねっ!」
 無邪気には微笑んで言った。

 こんな女の子があのクロノスの人間兵器の一員だったなんて誰が想像するだろうか。
 しかし、胸元に存在する『0』という番号が彼女が一員だったという証拠だ。



「・・・なぁ、さえ良かったら一緒に仕事しねぇか?」
「・・・・・・え?」



 の動きは止まった。

 その表紙にトレインのハーディスが地面に落ちる。


 ガシャンと言う音が響いた。

「あ゛っ!!!」
「ふぇっ?あっ!!!」

 トレインの声に我に帰った彼女は慌てて銃を拾う。

「あ・・・ちょっと欠けちゃった」
「マジっ!?直んの?」





「愚問ですよ」

 トレインの質問に、不適に微笑んでは言った。



「余計に腕を鳴らすだけよ」